第16話 病院には困った来訪者が

 田蛇は、幸運にも、致命的が怪我はなく、骨折すらなく、入院して2~3日すると動けるようになり、リハビリが始まった。目菜も入院したが、彼より早くリハビリが早く始まっていた。二人にとって幸いだったことは、同じ病院内で頻繁に会い、度々唇を重ねるようになったことだ。人が見ていない時にだが、もちろん。

 それは幸福ではあったが、それを帳消しになる不運と癒えることが続いた。

 どこで聞いたのか、目菜の高校の陸上部の顧問がやって来た。

 田蛇の病室にもやって来て、いきなり彼の胸ぐらを掴んで、ほとんど窒息死させるくらいに、

「彼女にあんな怪我をさせやがって。女達に制裁されて当然だ。恥を知れ。お前は、制裁を受けたんだ、被害者なんかじゃないぞ!」

 その他の罵倒を浴びせて出ていった。後で、目菜が来て、

「私のせいで御免なさい。」

と言ったが、その後に彼女のところにも行ったのだが、田蛇が彼女のことを心配するほど、彼女が受けた仕打ちの方が酷かった。

「お前は、自分の自業自得であんなことになったが、心を強く持ってやり直せ。被害者だと言って心を歪むでいても駄目だぞ、反省をして、ご両親を安心させてやれ。あの女達に、お前のために体を張って制裁してくれたんだ。感謝を忘れるなよ。」

 そう言って、肩や腕や腰を触って去って行った。田蛇は呆れると共に、怒りも感じ、かつ目菜に同情し、かつ、それでも、まず彼のことを気にかけてくれた彼女の心つかいが嬉しくなった。そのことを態度で示めそうとして、

「心配してくれてありがとう。」

と言ってから、彼女の手を握ると、彼女の体が震え、彼を忌避しかけた、ほんの少し。

“また、少し後退か。”彼女の受けた苦痛が、彼の想像以上だとあらためて思った。“それでも、あのおやじは、励ました積もりなんだろうな。”“ごめんね。”

 その後、次々に色々な連中がやって来た。女達の弁護士の関係なのだろう。その関係を言わず、鉄パイプ女達が、話し合いに来た、田蛇のDVから目菜を守ろうとしたという言質をとろうとした、その連中は。彼女らは、目菜が彼女らに涙ながら白状したとも言ったし、彼女の陸上部時代の顧問にも告白したと言って、田蛇に認めさせようとした。また、彼女に被害の共有だと言って、自分のレイプ被害を語る女もいた。一番酷いのは、レイプ犯に彼女が恋をしているのだと決めつけて、相談にのると言って長々と語っていったカウンセラーまでいた。目菜は、田蛇にそのことを、話ながら泣いた。田蛇の方は、やって来た連中のうち、3人に殴られた。目菜に訪問して、感極まって自分を押さえれなくなったらしい。後で、田蛇が自ら殴って欲しいと言った、目菜に頼まれた、涙ながらにと主張した。まあ、誰もが目菜が、

「あなた方だけです。私を本当に分かってくれたのは!」

と涙ながら言ったと主張しているのだが。自己弁護をしているというより、当人が本当に信じ込んでいるとしか思えなかった。

 変わった所では、アメリカ人の女性が来た。とうとうと、一方的に論じていったが、彼女は、目菜が今まで男にひたすら従順である自分を恥じるようになり、堂々と男に対して物を言う女になったとわざわざ言ってまわるほどだった。田蛇の所には心理学者、自称、が来た。大抵、サイコパスだとか、セックス肥大症だとか指摘してくれたが、

「どうして、心理学には関係ないと思うんだが、インポ、早漏、短小まで、付け加えられるんだよ!」

と田蛇は不満いっぱいの顔で文句を言ったが、目菜は笑いを堪えるのに必死だった。それを、田蛇は恨めしげに眺めた。それでも、何とか二人は、二週間で退院して、夏休みを楽しむのに間に合った。

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