第14話 まずは男どもが

 まるで定番のように、二人は帰り道で周囲を囲まれた。

「よお、俺達のこと覚えてる~。」

 一人がニヤニヤ笑いながら、親しげに田蛇に呼びかけた。

 目菜は田蛇に抱きつき、田蛇も黙って、目菜を強く抱き締めた。

「つれないな~。僕達は、君に頼まれて、彼女をレイプしたのにさ~。今仲良く出来てるのは、僕達のお陰なのにサ~。」

「何処かの三文漫画の台詞で、何のつもりだ。」

 震えながらも、ここは一言言ってやらねばと、田蛇は怒鳴った。

「彼女もさ~、彼氏の正体が分かったよね~。こんな卑劣な男の、インポの早漏野郎を捨ててさ~、俺らのところにこない~?いい思いさせてあげるよ~。」

 憎々し気な、そして軽蔑した目を向け、黙っていたが、一層強く抱き締める彼女に、その男の表情が歪んだ。

「なあ。」

 別の大柄な、肥満体の男が代わって口を開いた。

「俺達はよお、あんたのために、あの動画が流されないようにしてやってたんだぜよお。ち~とばかり、御礼してくれててもいいんじゃないかなあ?」

 他の連中が、そうだ、そうだと合いの手を入れた。二人は、肯きあうと、全力で駆けだした。その勢いで一人を吹っ飛した。目菜がそのまま駆けていき、田蛇が踏みとどまった。そして、あっという間に殴り、投げ飛ばされた。倒れた彼を押さえつけて、

「こいつを掘ってしまえ。」

 とズボンをパンツごと引き下げた。その時、大声で助けたを呼ぶ目菜に何人かが集まって来た。さらに、パトカーの音も。もしもの時の発信をスマホからしてもいたのだが、その前に彼を押さえつけている手が離れた。

「ち、あの音で萎えちまったぜ。」

という声が聞こえたが、それも原因でもなかった。数人が飛ばされ、ドサッと地面に倒れる音がして、

「警察だ。」

の声。彼らを内定していた刑事が助けてくれたのだ。これに驚き、腰を彼らは抜かして、しばらくして到着したパトカーの警官達も加わって、逮捕され、連行された。

「怖かったよ~。」

 戻って来た目菜の前で、田蛇は腰が抜けて立てなかった。

“本当にかっこ悪いな。”と思ったが、目菜は優しく頭を抱き締めてくれた。そして耳元で、

「ズボン、あげなよ。」

 その後、取り調べでも、裁判でも、彼らは執拗に自己正当化を試みた。

「彼女を助けようとしたんですよ。」

「レイプ動画の流失を止めようとして、相談に行ったんです。」

「あのレイプ動画の流失も、レイプも彼女の彼氏が策動したことなんです。」

「あの時も彼女に暴行しようとしていた彼に制裁をしていたところだったんです。」

と言い立てた。何故か、彼らに人権派弁護士がついた。ただし、SNSどの情報発信も簡単に失敗させられ、理由は定かではないが、早々にベテランクラスが抜けて、それ程経験のない者に丸投げされていた。

 それに、最初から警察に通報され、内定捜査もされていたから、十分な証拠もあった。暴行現場の現行犯であり、田蛇と目菜はしっかり録音もしていた。

 さらに、彼らの口裏合わせはあまりにも不十分であった。その上、彼らに関係ない人権派弁護士が、田蛇達を支援さえした。

 だから、裁判は一方的なペース終わった。二人はホッとしたが、それでは終わらなかったわけである。

 相手側の弁護士は、あくまで被告達を純な、善意の若者として訴えようとした。SNSで、田蛇こそ全ての巨魁だ、とも糾弾した。それを批判されると、

「巨魁が黒幕とか、一番悪い奴だという意味だという説を初めて聞きましたよ。私は、あくまで大きな固まりだという意味に使っただけですが。」

と言い放った。そうでありながらも、法廷では田蛇こそ、一連の事件の巨魁だ、と糾弾したのだが。前後平気で、自己の主張が食い違うようになり、次第に一方的な方向に進んでくれたのだが。

「あの時、ズボンがひきおろされた時はどうなるかと思ったよ。」

とは言ったが、“あの時の君の気持ちが少し分かったよ。”といいかけて止めた。彼女のあの時の気持ちは、比べようもなかったろうし、自分に同情を求めるようであり、勝手な、仲間面は不愉快だろうと思ったからだ。このことで、二、三日はぎくしゃくしてしまった二人だった。そして、夏休みが始まる直前、彼女の新しい水着の買い物につき合った帰り道だった。

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