第11話 藍野の背後に…また…

「彼女は何者なの?」

「それに、あのおっちゃん達は?」

田蛇兄が腕組みをしながら、唸った。それが終わると、おもむろに話し始めた。

 藍野は、彼と同期である。女性の性被害問題を研究するサークルに、入学後直ぐ入った。彼女が入った頃までは順調に活動、研究が進んでいた。しかし、それは直ぐに壊れた。DV被害などで、加害者教育問題で、

「直ったら家族が帰って来る」

と言って励まし成果をあげたという研究者がおり、片やそういうことは、「家族は、もうよりを戻したくないんです。行政の、ものが分からない人は黙っていて欲しい。」という。ちなみに、その研究者も、成果をあげたという個人、団体も役人でも、公的機関でもない。デートDVする男は結婚してもDVするという専門家もいれば、デートDVしていた男が結婚後良き夫になる、父親になるという主張をする者もいる。それが離れた所で、自分と異なる意見は、全て行政の馬鹿が言う、と言うことで、お互いを批判しないですむので、悪い関係にならないでいられるのだ。大人?の知恵だ。が、同じグループにいたらそうはならない。それに、活動を巡って、他の組織が入って来たのと活動資金、強力しあう団体と選考やらで、話しがより面倒なことになる。片や研究、個々の被害者のケアをボランティア活動で進めるというグループから、日米安保廃棄、平和憲法維持の運動の一貫として進めさせようとするグループまでが同居することになったので、あっという間に解散となってしまった。

「ただ、彼女は純粋に、一人で活動していたんだよな。当時、今のようなことはなかったんだけどね。」

 その彼女が変わったのは、一年ほど前のだった。

「過激派、極左グループの勧誘員みたいになっちゃったのよね。」

 大学の大先輩でもある田蛇伯母の話しだと、彼らは昔から女性を仲間にして、自派に連れ込む手法を取っていたと言う。

「あのあたりは、その女が獲物を探している所だから近づくな、と言われていたものよね。今だにやってるとはね。まあ、あの頃の奴らがまだ活動していると聞いていたからねえ。」

と後で聞いて驚いていた。

「ああ、それで、あの爺さん達が。でも、僕達のことをよく知っているようだったけど?」

「従兄弟の兄ちゃんが見つけたんだけど、彼らのホームページでさ、彼女達と金谷が対談しているんだよ。兄ちゃんの話しだと、あいつ、大学の時代から関係を持ってたらしい。」

「は~、なるほどね。」

 大きな溜息を田蛇はチラッと目菜を見た。彼女はことさら無表情を装っていた。

「今回もみんなのおかげで助かったよ。」

田蛇が頭を下げると、目菜もそれに合わせた。

 その後、ようやく駆けつけて来た、大学事務所職員に事務所に連れて行かれ事情聴取を受ける羽目になった。それがかなり時間がかかりうんざりさせられるものだった。田蛇達に非があることを何とか聞きだそうとしているとさえ思えた。しかし、解放してくれた時には、職員から、

「長時間、申し訳ありませんでした。事実関係をしっかり確認しないといけないので。あの辺の見廻りを致しますので、また何かあったら、連絡して下さい。」

と言われ、深々と頭を下げられた。

「あいつら影響力があるとは言えないけど、ないとも言えないのよね。それに藍野なんかを前面にだすから、厄介なのよ。」

「大学の自治を利用して活動している、色々なグループがあって、日頃対立しているが、何時暴力事件になるかわからなくても、いざ取り締まろうとすれと一致団結して抵抗するからね。」

「だから、あまり効果はないから、自分達で注意するしかないわね。ただ、目立つのは嫌う奴らだから、もうあなた達にちょっかいを積極的にはしないとは思うけど。」

「また、金谷達に対処しないとな。」

「また、迷惑をかけてすみません。」

 目菜が頭を下げ、続いて田蛇が頭を下げた。

「気にしない、気にしない。」

 みんなが笑ってくれたので、目菜は少し心が軽くなった。

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