第10話 私って、DV被害者?

 あれはキャンパスで、田蛇とはぐれて、捜しているうちに、たまたま文学部棟の近くを歩いていた時に声をかけられた。入学式からまだ日があまり経っていない時期、講座の選択に学生達が忙しない時期でもあると同時に、サークルの勧誘が活発な時期であるから不思議には思わなかった。

 声をかけてきたのは、小柄だがスタイルのよい、目のくっきりとした美人の藍野仁美で、女性の性犯罪被害を研究するサークルだと言って、勧誘してきたわけだが、その時は強引な勧誘はせず、女性の性犯罪被害について話した。話かたもよく、内容も興味深かったので、しばし話し込んだ。そうこうしているうちに、田蛇がやってきたので、別れを告げて、田蛇の方に駈け寄った。それから二度ほどあって話をした。特におかしなことは言わなかった。

「私はあなたを助けたいの!」

 その日は、事情が全く違っていた。彼女は、目を見開いて、目菜の手を握り引き摺って行こうとした。呆気にとられて、暫くついて行ってしまったが、何とか踏みとどまった。

「あなたは我慢してはいけないのよ!デートDVも恋人間のDVも犯罪なの。戦わないといけないのよ!泣き寝入りはだめなのよ!」

「だから、私はDVはされていないのよ、って何度も言っているでしょう!」

「目菜!」

「田蛇!」

 田蛇が見つけて駆けてきた。二人を引き離して、田蛇に目菜が寄り添った時、二人は数人の男達に取り囲まれていた。内二人は、大学のキャンパスに似合わない、頭が薄くなった中年男だった。

「この男が、DVしてるの!助けて!」

と藍野が叫ぶと、田蛇の肩を掴み、

「レイシストは許さん!」

「彼女は我々が守る!」

と言い始めた。咄嗟に、目菜は田蛇に抱きついた。田蛇は彼女を守るように、背中に手をまわした。包囲網は狭まり、田蛇は小突きまわされ始めた。その周囲で、何かトラブルかとざわめきが起こり始めていた。すかさず、藍野が叫んだ。

「この人が、女性にDVしているんです!あなた、止めなさいよ!」

と田蛇を指さした。ざわめきの雰囲気が変わり始めた。

「彼女から離れろ。暴力男!」

と二人を引き離しにかかった。

「止めろ!」

「この人達のいうことはは嘘です!助けて!」

 二人は大声で叫んで、抱きしめ合いながら、体当たりのように、何とか囲みを突破した。しかし、直ぐに、また捕まってしまった。

 その時、

「妹に何しているんだ。」

「弟を離しなさい!」

 目菜兄と田蛇姉、そして、戸奈と宵谷達が駆けつけてきた。

「私達は、この男の暴力から、彼女を守ろうとしているんです。協力して下さい!」

 藍野が立ち塞がった。

「そうだ!我々は彼女に協力しているんだ。」

「たまたま通りかかったら、彼女達が助け合うを求めていたんだ。」

男達は頭が禿掛かったら男たちを先頭になって言い立てた。しかし、目菜が

「私は暴力を受けていない。あなた方が、私達を拉致しようとしたのよ!」

と叫び、二人が彼らの手を振り切って戸奈達の所に逃げ、女性の数の差が圧倒的で周囲の雰囲気が自分達に不利になっている来ているのを感じ、さらに田蛇姉が

「大学の事務所に通報して!」

と指示し、すかさずスマホで通報を始めたのを見て、舌打ちをして男達は引きあげた。残った藍野は、

「私、あなたを見捨てないからね!あんたの暴力を許さない!」

田蛇を指さしてから、男達の後を追って駆けだしていった。

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