第9話 不幸は私達を探してやってくる

「了!あったよ!」

 目菜が抱きついてきた。C大学経済学部の入試試験合格発表会場、他人の目もはばからず、である。

「あ、了は?」

「あったよ。」

「よかった!」

とまた、ぎゅっと抱きしめた。仕返しに、田蛇もギュッと抱きしめる。

「お互い良かったな。」

「うん!」

 端から見ると、単なるバカップルである。痛い視線が突き刺さっているが、二人とも慣れきって、不感症になっていた。

「いい加減、他人のふりをしたくなるぞ。」

「全く、恥ずかしくなるわよ。」

 戸奈と宵谷が、呆れたという感じで声をかけてきた。

「お前達には、言われたくないが。」

 田蛇は、しっかり腕を組んでいる二人に反論した。“こいつらは、様になっているな。”そう思いながら、田蛇と目菜は、バカップルを続けた。

 この時まで、二人の関係は勉強と時々近くの公園、寺社、遺跡、城、本屋、ゲームソフト等で、あまり色気のない交際に終始していた。たまには息抜きも、とかえって親達が二家族で海に行ったこともあった。目菜は、水着を着ようとしなかった。それに、誰も苦情を言う者はいなかった。それでも、海辺で皆のジュース等を買いに行った帰り道にナンパされてしまった。声をかけられ、近づかれただけで、彼女は泣き出して、座り込んでしまった。その時、直ぐに田蛇がかけつけた。

「すみませんね。」

 そう言って、手を差し伸べて、彼女を優しく立ち上がらせて、そのまま立ち去ろうとした。しかし、一人が

「なんだよ!俺達がなんかしたみたいじゃないか!何とか言えよ、詫びの一言もないのか?」

 粋がっての脅しだった。

「彼女。極度の人見知りなんです。許して下さいよ。」

 田蛇は、本当は怖くて、足の震えを堪えながらも、力強く、明るく謝った。

「ごめんでいいなら、警察はいらんわ。」

 その時、二人の家族が心配してやってきた。それを見て、粋がっている一人を他の連中がひきづるようにしてつれていった。

「大丈夫かい。」

「ごめん。あの時のことを思いだしちゃたの。」

 無理して笑ったが、目は泣いていた。それをみると何も言えなくなった。その後は、両家揃って、近所の神社に初詣に行って、新年を田蛇の家で過ごした。目菜の振袖姿は綺麗だった。田蛇は、はっきり、それを口にした。

「もう、馬鹿!」

と彼女は彼をぶった。だから、殆ど進展などはなかった。彼女かま彼の部屋のエッチ本の隠し場所まで隅々知り尽くしたくらいだろうか。そんな二人が少し進展したのは、卒業式直前の頃だった。

「あんた!しっかり、あのあばずれの面倒を見てなさいよ!私の彼氏に色目を使わせないでよ。」

 呼び出されて、何人もの女子生徒達に囲まれて、怒鳴りつけられる。この時、3度目だった。物陰から、目菜が飛び出してきた。

「いい加減にしてよ!私はこの人とラブラブで、空気が入る隙間だってないのよ。あんたこそ、自分の彼氏をしっかり管理していてよ!迷惑よ!」

と言い立てると、彼に思いきり抱きついてきた。ドキッとしたが、彼もすかさず抱きしめた。彼は逐一彼女に、誤解を与えないように、話していたが、このことは事前に決めていたわけではなかった。二人の行動に唖然として、毒気を抜かれて、彼女らは捨て台詞を残していってしまった。

 その数日後、田蛇は数人の男達に囲まれた。少し前まで、目菜が告白されることが多かったのだが、女子生徒達からの情報が影響があったのだろう。いきなり胸ぐらを掴まれ、

「あいつはな、俺に惚れているんだよ。お前なんかとは遊びなんだよ。」

“そんなに自信があるなら、遠くからせせ笑っていろよ。”

と心の中で叫んだが、逆らうことが出来なかった。力の差がありすぎた。バスケット部の巨漢だった。目菜が飛び出してきて、彼を突き飛ばした。僅かに動かされただけだったが、即座に

「ね、キスしよ!」

考えている余裕もなく、二人はキスした。気が付くと、男達は姿を消していた。

「御免。初めてだから、下手で御免。歯がモロにぶつかってしまって。」

「わたしも、…自分の意思でキスしたのは初めでだから。」

 そう言ってから、辛そうな表情になった。

「ゆっくり、上手くなろう。でもさ、嬉しかったよ。」

 なにも言わないと悪いと思って、何とかセリフを口にしたが、言わなければ良かったと言うのしか出てこなかった。それでも、目菜が少し微笑んでくれたので、田蛇は少し安心した。それが、顔に現れたので、安心した目菜は彼の手を握った。

 この数日後、二人が校内で不純な行為をしているという情報が教員達に届いた。言い出したのは、金谷だったが、さすがに、この時期、誰も問題がでてほしくないことと、被害者が出たというものではなかったことと、二人の担任が二人に確認した上で反論したので、そのまま立ち消えになった。それでも目菜の家に、電話をしているが。

 そういう大したことのないことばかりで卒業、大学生活、キャンバスライフが、始まったわけだが。

「あなた、デートDVを受けているでしょう?」

「え?」

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