第8話 両家の親公認の仲に
どうして、目菜の両親が、田蛇の両親の前に謝ることにかったのかと言うと。
よくある四文ドラマの台詞で、
「うちの娘につきまとうな!」
と目菜の父親に、彼女の家の玄関で殴られ気を失って、顔が腫れ上がることになったからだ。
そんなことになったのは、目菜から携帯で、
「金谷が変な電話がきて、両親があなたのことを誤解して…、一緒に説明して!」
どんな話かは、ある程度予想できた。田蛇の家にも、電話がきていたからだ。家に着くと、母親が真っ青になって、彼に問い質した。
「お宅の息子は、彼女をレイプして、それをネタに強迫して今も関係を強要している。彼女の両親は、お宅の息子を提訴しようとしている。絶対、彼は許されない。彼女は私の元にきて、泣いて真実を語ったんだ。今度こそ、逃げられないぞ!」
田蛇の説明で、母親は落ち着いた。目菜の家に行くのは、気が進まなかった。何となく行かなければという気持が動いた。止めてほしいと母親に、彼女の電話内容を伝えると、
「そうね。行って説明して上げた方がいいかも。」
結果、逃げ道が完全になくなった。兎に角、嫌なことは早くすまそうと、急いで隣町の彼女の家に向かった。彼女に手を引かれて入った直後に彼女の父親から殴られた。長い間気を失っていたわけではなかった。目を覚ました時、彼女が両親を必死に説得していた。そして、自分がレイプされるのを助けようとして怪我をして倒れている田蛇に、逆恨みして暴行し、さらに殺そうとまでしたことまで告白した。ようやく冷静になった両親は、同様に冷静な判断を下した。金谷の話はおかしいと。さらに、田蛇に対する金谷の行動を聞き、彼に対して行動をとらなければならないと思った。そして、田蛇にまず謝った。それから、田蛇とも話をする内に、両家で相談することになった。田蛇と娘を連れて、彼の家に。彼の顔の腫れが一目瞭然なので、土下座して目菜の両親は田蛇の両親に、謝ることになった。
「まあ、頭を上げて下さい。娘さんのことを思ってのことなのですから。それより、今後のことを考えましょう。」
彼の父親が言った。両家会議になり、金谷のSNSチェックがまず始まった。案の定、いくつも起ち上げて、レイプされ、その後も強迫されている少女を助けようと奮戦中の彼の活動がてんこ盛りだった。感動的な、被害少女と彼のやり取り、彼女と彼女の両親の感謝の言葉、田蛇すら加害者に怒りを感じる加害者とその家族の言い草。
「こんなこと言っていないよ!」
目菜は、今いる場所も忘れて田蛇の手を握った。直ぐに、田蛇と共に真っ赤になった、握った手を離すのも忘れて。
「コホン!」
田蛇の姉が咳払いをして、注意を自分に向け、
「あいつ、今度は世間の声とかも載せているし、協力者としている人間達も載せているわ。額面通り信じられないけど、今回はかなり準備しているんじゃない。」
「そうだな。まずはまた、SNS潰しと、両家で学校に抗議に行きましょう。よろしいでしょうか?」
「もちろんですよ。」
「私達二人ともご一緒しますわ。」
「後兄弟姉妹、悪友達にも協力を、頼んで彼の企みを潰さないと。」
「また、母の弁護士や同窓生達にも声をかけるわ。」
「私達も親戚、友人達に協力を頼もうと思います。うちの息子達にもSNS対策をやってもらいますよ。」
作戦会議は、進んでいった。“悪いな。全て私のせい?”と彼女が思った時、以心伝心のように手がより強い手で握られた。更に、田蛇の父が二人の方に向き直り、
「君は被害者なんだ。決して、自分が悪いなどと思わないでくれ。私も息子も、男だから君の苦しみは分からない。女性だからといって、当事者でない者には分からないだろう。だから、嫌なことははっきり息子に言ってやってくれ。それで理解できなかったら、理解できないこいつが悪い、振ってやってくれ。君は悪くない、こいつが悪いのだから。」
そういって頭を下げた。
「それからね、清純な関係でね。彼女だけでなく、あんたにも言っているのよ!」
田蛇の母も参加した。そして、二人して目菜に、軽く頭を下げた。
「こちらこそ、娘をお願いします。」
と彼女の両親も頭を下げた。
“え?両家の親公認の関係になった?”一方、“喜ぶべきか?退路を外された気もする。”と一瞬、田蛇は思ってしまった。
翌日、二人は手を握って登校した。それが、二人の戦いだった。
“もう、ヤケよ。”
“こうなったら、とことんやってやる。”
登校時は、途中で待ち合わせして、下校は駆けてくる目菜を教室の前で待ち、後は腕を組んで歩くことを続けた。二人で、図書館で、それぞれの家で勉強をした。金谷が二度、怒鳴ってきたが、
「私達、両方の親の公認の仲なの!」
高らかに目菜が宣言した。それに対して、
「自分を大切にしろ。自暴自棄になるな。」
と言い、
「大丈夫だ。俺はお前を見捨てないぞ。何時でも、助けてやるから。」
と言って背を向けて去って行くことを繰り返した。目菜は、あかんべーをした。田蛇の出番はなかった。
この戦いも、長くは続かなかった。
「金谷?あいつ、大学時代、いつも試験前に俺のノートを借りにきて、それを使ってナンパしていたくせに!」
「何!その最低教師!私の姪っ子を!」
目菜の年の離れた従兄と叔母さんも参戦した。
目菜の両親に、
「大丈夫ですよ。立派な弁護士の知り合いが協力してくれますから。あいつらの悪徳弁護士なんか恐れる必要はありません。」
と言って近寄ろうとし、拒否されても、
「脅しに屈したらいけません。私がついていますから。」
と言って、目菜には
「自暴自棄になるな。何時でも、相談に来い!」
と執拗に言ってきた。彼が語る、執拗に語るレイプから女性を守りたい気持、目菜が泣いて彼にすがりつく話等感動的でさえあった。同時に、彼女がレイプにあったことをいたるところで吹聴したわけでもあるが。だが、それは学校内と彼の周囲での狭い範囲に限られた。彼が頼ろうとした弁護士や政治家、人権団体、人権関係の国際機関も、コネでとったアポイントですら断られる羽目になったからだ。
「あんたのご両親や親戚って恐いわね。」
「その言葉、そのまま、そっくり返したいよ。」
二人は、互いの家を行き来して勉強しながら、溜息をつきながら言い合った。
「まあ、それで助かった訳だから感謝しないと。」
「そうね。そうじゃなかったら、どうなっていたかと思うと怖いわね。」
次第に手詰まりになってきた彼は、
「いやね、僕はね、あいつに、彼女の辛を分かってやれ!レイプされたから、もう別れたいなんか言うのは男ではない、といってやったんですよ。彼女には、胸を張って生きろと励ましてやったんですよ。両親の相談にも答えていたんですよ。」
と言うようになり、そのうち、
「親身に相談に乗っているうちに彼女は俺に恋愛感情がもってしまってね、誤解を受けるこてになってしまった。」
となるまで、さほど時間はかからなかった。最後は、
「二人を励ましていたのですが、誤解を与えてしまいました。申し訳ありません。」
という、謝罪にもならない謝罪を口にしたのは、完敗してからだった。
「でも、君の方は辛かったろう、あいつ、あのこと吹聴しまくったようだから。」
「まあ、結構いたわね。女の子もいたわね。でも、守ってくれる男女も結構いたから何とかなったわ。少なくとも、あなたのように怪我はしなかったわ。」
「大した怪我はなかったからな。」
彼女は彼の頬を黙ってさすった、今さらながら。
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