第7話 レイプした相手を脅迫してつきあっているって?

「お前!やっぱり、レイプ男だったんだな。その上、脅迫してつきまとっているんだな。」

 金谷が授業の最中、もう終わりかけていた他の教師の授業の最中だった、しかも、の教室に入って来て怒鳴り声を、田蛇に向かってあげた。

「こいつはね、B組の目菜をレイプしたあげく、ストーカーして、脅して、無理矢理恋人にして、DVをしている卑劣な奴なんですよ。目菜がね、私に泣いて助けてくれと訴えてきたんですよ。私がね、俺はお前の味方だ、と約束したら、遂に真実を告白したんですよ。」

 唖然として声が出なくなっている女性教師、本来の授業をしている、に弁解するように言った。間の抜けたように終業のベルが鳴った。

「目菜がそろそろ来るな。こいつに、彼女の前で、もうまとわりつつかないと約束させろ。」

 彼のお気に入りの運動部の巨漢2人に目で合図して、動くに動けなかった田蛇を突然押さえつけた。立ち上がって近づいてきた2人に彼を引き渡した。2人にはじめこそ、戸惑った様子だったが、次第に楽しむような表情になっていた。田蛇を、力任せに締めつけながら、引き摺るようにして、廊下に出た。だれもが、呆然として動けなかった。そこに、いつものように、目菜が駆けてきた。彼女の前に、田蛇は2人の大柄な、マッチョな男に押さえつけられていた。“どうしたのよ?”トラウマで逃げ出したくなる自分を必死に押さえつけて、

「田蛇君に何しているのよ!」

 叫んだつもりだったが、小さな声しか出なかった。

「こいつは、あんたと別れたいんだってよ。」

「さあ、別れて下さいと謝れよ!」

 彼らは、無理矢理に頭を下げさせた。“本当に情けない格好だな。”と情けなく思ったが、

「俺はお前が好きだ!」

 田蛇は必死に叫んだ。周囲は、一瞬固まった。目菜は、安心する自分を感じたが、直ぐに声は出なかったし、動けなかった。

「お前!なに言ってやがる。」

 驚いて、一瞬弱めてしまった、押さえつける力を元に戻そうとした時、田蛇は渾身の力で振り払って、目菜の前に飛び出し、

「お前といたい、お前といると幸せだ。でも、お前が、それが迷惑だと言うなら、諦める!別れる!」

 その言葉に、ようやく喉から言葉が上がってきた。

「な、何言っているのよ!何時、あんたのことを嫌だなんていったのよ!」

“ようやく声が出た。でも、どういうことなのよ?”彼女は混乱していた。

「金谷が、お前が俺にまとわりつかれて困って助けを求められたと言っている。俺は、お前の言葉を信ずる。お前が、俺といたくないと言うなら、もう近づかない!どうなんだ!」

 一気にまくしたてた。

「こいつ何いってやがる。」

「この期に及んだ、卑怯もの!」

 2人は、田蛇を抑え込みにかかって、目菜の方を、“ほら、直ぐに抑え込むから”と、親愛感すら示すような表情の顔を向けた。そこに必死の形相の目菜が飛び込んできた。

「彼を離してよ!」

と彼らを突き飛ばした。さすがによろめいたところを、田蛇が暴れて振りほどく。

「こいつ!」

という2人を、目菜が突き飛ばす。素早く、目菜は彼の胸に飛び込んで、

「あんたが好きなの!分からないの?」

 涙ぐみながら、叫んだ。田蛇は、軽く抱きしめる形で、

「俺も、お前が好きだ!お前の言葉を信じる。離れない!」

と叫んでいた。

「お前、何やっている!」

 怒鳴り声の主は、金谷だった。つかつかと2人に近づいてきて、

「常識を知らんのか!ここは、自分の罪を謝罪して、一生近づきませんと誓うもんだ。人のせいにして、それでも男か!」 

 彼も怒鳴り声で、一気にまくしたてた。唖然とする田蛇と目菜は、恐怖すらして互いを強く抱きしめてしまった。彼は、目菜の正面に立って、先ほどとは異なる表情と声で、それは頼もしい男のそれだった。

「俺はお前の味方たがらな。苦しかったら、いつでも、頼ってこい。」

“は?”目菜は、何が何だか分からなかった。また、金谷は田蛇の方を向き直った。今度は、悪党に向かう正義漢のように思われた。

「彼女はな、泣いて、助けてほしいと駆け込んできたんだ。彼女が可哀想だと思わんのか、それでも人間か?お前のことは許さんからな!」

 そして、再度目菜に向き直って、

「何時でも、俺のところに来い。何時でも、助けてやるからな。」

 彼女の方に手を伸ばした。それは、力づけるために肩に手をかけようとするかのようだった。彼女は、その手を振り払って、

「あんたのところになんて、駆け込んでなんかいないわ!いい加減なことを言わないでよ。」

 しかし、彼は顔色も変えず、目菜に向かっては、

「分かっている。助けてほしい時は何時でも来い!」

 田蛇へは、

「彼女を強迫して、暴行を加えて、許されると思っているのか!」

と怒鳴りつけ、背を向けて歩き去った。彼の命令に従った2人は、何時のまにか姿を消していた。

「は~。」

「はあ~。」

 とにかく、生き延びたというような安心感で、大きな溜息が出た。

「ところで、お二人さん。何時まで、その格好でいるつもり?」

ハッとして、ピッタリと身を寄せ合って、両手を結んでいる自分達の姿に、気がついた。そして、自分達が言ったことが、急にひどく恥ずかしくなった。

“ようやく終わった。”と2人は思った。

 しかし、その夜、目菜の両親が田蛇の両親の前で両手をついて謝ることにまでになってしまった。

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