第6話 リア充になるかと思ったら
「は?」
田蛇は妄想は、してはいたが非現実だと思っていたから唖然としてしまって、目の前が真っ白になって、直ぐには反応できなかった。それを見て、目菜は焦った。“やっぱり、あのことを気にしている!”
「妊娠検査紙でも試したし、生理も来たから妊娠していないよ!」
目菜の鬼気迫るくらいの迫力に田蛇は押された。その見つめる目も、死を呼ぶ邪眼のように火が走っているようにすら見えた。“やっぱり、汚れた女の子じゃ駄目なの?”田蛇の沈黙に目菜は心配になったが、きるカードはもうない。田蛇は、目をそらさず真っ直ぐ彼女を見て、深呼吸してから、
「そのことはともかく」
目菜は緊張して言葉を待った。
「よろしくお願いします、こちらこそ。」
頭を深々と下げた。合わせて頭を下げた目菜は、頭をあげると
「本当にいいの?」
まだ、不安そうに彼を見た。
「君は美人だし、趣味も、話も合うし、一緒にいて楽しいから。前にも言ったろ?そういう君こそ、どうして僕を選んだ?」
少し間が空いた。
「一緒にいたいな、いると安心するから。」
か細い声だった。“傷のなめ合い。”2人の頭には、その言葉が浮かんだ。“まあ、いいか。”田蛇はそれで割り切った。目菜は、少し後ろめたかった。
「とにかく、これから2人でリア充しよう。」
無理に明るい表情を作って、手を差し伸べた。
「うん。」
目菜も無理に笑顔を作って、彼の手を握った。それから、授業が終わると、目菜の方から田蛇を迎えに来るようになった。
イケメンというわけではないが、身長が女性としては高めである彼女より、彼は数㎝高かったし、彼女ほどではなかったが割とスマートだったので、並んで歩く姿はお似合いのカップルにも見えた。
「遠目で見ればだ、あくまでも。」
と田蛇は言った。
彼は歴史が好きだったが、彼女も歴女だった。そのことで、話が盛り上がった。
「どうして、陸上部を止めてから歴女部に入らなかったんだ?」
「私の方が聞きたいわ。あなたこそ、どうして今まで帰宅部なの?」
「あそこって、先輩から伝統を引き継いだ研究とか、歴女はこの観点でと限定して、さらに解釈を押しつけるんだ。だから、止めた。」
「私も同じよ。女が見た歴史を強要してさ。男とか女とか関係ないし、なんでそれが女の観点よ、個人の趣味じゃない、てさ。」
2人はそう言い合って笑った。マンガも、アニメも、ゲームも、全く同じではないが、お互いに関心が共有される範囲内だった。田蛇は楽しかったし、目菜も安心出来た。彼女が、2年の後半、学校をサボりがちになり、成績も落ち、少し前の中間テストでも結果が悪かったと言うことで、一緒に勉強するようにもなった。その時、つい見とれて、さらに彼女の胸元に視線が行ってしまう。それに彼女が気づくと、胸元を隠すようにして、怯えた、そして憎悪を帯びた目を向けた。その度に、
「ごめん。」
「私こそごめん。」
でその場は終わっていた。
土曜日で、公園のベンチに並んで座りながら、目菜がなぜか、無言だった、彼女が連れてきたのに。
「私のこと、何か言っていない、あんたの友達?」
真剣な表情で、突然、顔を突きつけて詰問してきた。慌てて、
「いや、別に。」
「お願い!本当のことを言って!」
涙まで浮かばせて迫られて、彼は降参した。
「ごめん、悪かった。全て、これからはどんなことも伝えるよ。君もそうしてくれ。僕達は、…その…普通と違うきっかけだから、本当のことが分からないと、かえって傷つけ合うだけだから。いいよな?」
「うん。分かった。」
自分から言おうとしたが、目菜はどう言っていいか迷って、口が震えた。それを見て、田蛇は
「言いだしっぺから、言わなければいけないね。」
と話し出した。
まず、二つ。昼休み廊下を歩いて、校庭の目菜との待ち合わせ場所に急ぐ途中、数人に取り囲まれ、リーダー格の男から、
「目菜とつきあってる積もりだって?あいつは俺にベタ惚れなんだよ。遊ばれているのが、分からないんだ。可哀想~。」
それから、脅す顔になって、
「俺の女に手を出すなら、相応な覚悟があるんだろうな?」
と凄んだ。
「彼女が嫌だと言わない限り、一緒にいるよ。」
「フン。他人の残りをものを喜んで、さもしい奴だ。」
つばを飛ばして立ち去った。田蛇は震えていた。
次は、デカイの一言の男だった。顔は、イケメンだったが。こっちはいきなり、胸元を掴み、
「俺に惚れてる女に手を出しやがって、それでも男か?」
「2人で同意してるんだから、文句を言われる筋合いはない。」
この時は、授業の合間の休み時間で時間的なかったせいか、
「このハイエナ野郎。」
と罵って立ち去ってくれた。
前者は、陸上部のグループで、後者はバスケットボール部だった。
一件は、昼休みの廊下ですれ違いざまに、
「他人の使い古しを、嬉しそうに。腐った男だな。」
とわざと聞こえるように言って立ち去っていった。
「何よ、それ!全然違うからね、私は。」
「分かっているよ。それで、僕の友人達についてたけど。」
少し躊躇した後、
「メールだったり、電話で、お前…君のことを、彼女、美人だね、とかいって。」
「お前でいいよ。私も、あんたと言っているんだから。」
目菜が話の腰を折った。田蛇は苦笑した。
「それから、しばらく無言になってから、彼女は俺が助けようとした女の子だという噂があるけど、…。」
「あんたは何て言ったのさ?」
「う~んと唸って、そもそも、暗くて、誰が誰やらわからなかった。俺、…ぼくは今つきあっていて幸せだし、彼女の初めてが欲しいわけではないし、僕のことを好きでいてくれたら、それでいいよ、と言った。」
「ありがとう…。」
少し嬉しそうだった。
「それでね。」
意を決したく表情で、
「最近、擦れちがうたびに、あいつレイプされたんだとか、お古なんだという声が聞こえて来て。それから、金谷がさ、レイプ男の脅迫に負けるな、俺がついている、何時でも相談に来いとか、突然言ってきて…。あんたが言いふらしているんじゃないかとか、こんなこと私はやっぱり嫌じゃないかとか思ったりしてしまったりして…、ごめん。」
少し涙目だったので、田蛇は怯んだ。
「お前が謝る必要はないよ。ところでさ、お前は美人だから、つい見惚れてしまうんだけど、その視線は。」
「思い出すのよ。あの時のことを。」
「分かったよ。お前は悪くない。でも、絶対お前の望まないことはやらないと誓うから、その視線や妄想は許してくれ。それでもだめなのであれば、何時でも振ってくれていいから、そうなったら悲しいけど。」
「馬鹿!振ったりなんかしないよ。」
そういって手を握った。
「手を握るのはいいんだ。」
「馬鹿~。」
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