第3話何故、レイプ犯が僕だと
始業式が終わり、数日が過ぎた。田蛇の退院は始業式に間に合った。何事もなかったような顔をして学校に通う毎日が始まった。彼はそう思っていた。
それは、保険体育の授業から始まった。通常の授業だった、始めは。それが、だんだん教師の顔が怒りの表情に変わっていくのが、誰の目にも明らかだった。教室全体がざわついた。そして突然、彼は立ち上がり、大声で叫んだ。
「このクラスには、他人の恋人をレイプして、制裁を受けた恥さらしがいる!」
ざわつきは、はっきりしたものになった。“まさか?”と田蛇は思ったが、表情を変えず、教師、金谷正義、自称熱血先生、の方を真っ直ぐ見た。立ち上がった彼は、田蛇の机にスタスタと歩み寄った。
「お前のこと何だよ。この恥知らず!」
田蛇は勿論反論した。レイプされている女性を助けようとして、簡単にのされてしまったと。
「どこまで卑劣な奴だ。女の子の気持ちが分からないのか!彼女に謝れ!」
そう言われてもどうしようもない。そもそも、その女性が誰か分からないのだ。彼は動かなかった。金谷は、田蛇の首根っこをつかんで、引きずるように教室から出た。これを振り解くどころではなかった。彼は黙って従った。そして、生活指導室に連れて行かれ、
「そこに正座していろ!」
床に直接正座させられ、
「俺がいいと言うまで、正座していろ!」
彼は怒鳴って、その部屋を出ていった。彼の両親が駆けつけてきたのは、暗くなってからだった。学校からの連絡ではなく、同級生で、ご近所の、幼馴染みの戸奈が彼の母に連絡したのだ。
両親が生活指導室に入った時には、長時間の正座と恫喝で田蛇は疲労困憊でぐったりとしていた。
彼の両親はまずは彼を抱き起こそうとした。すると、彼の前の机の椅子に座った金谷が、
「こいつはね、不良グループの女をレイプした卑劣なやつなんですよ。そして、制裁を受けたんですよ。それを認めて、女性に謝罪しない限り、ここからはだしませんよ。さあ、ご両親に、本当のことを言え。」
大声になったり、怒号になったり、諭すような調子になったりして言った。田蛇は、小さい声しかだせなかったが、金谷の話を否定した。両親は頷いて、金谷に反論した。
「分からないんですか?!ねえ、彼らは純な奴らなんですよ!彼女のために、敢えてタイマンで制裁したんですよ。これは、犯罪じゃない、暴行でもない、制裁なんだよ!」
彼の母が少し金切り声で、誰がそれを言っているんですか!と反論すると、彼は奇妙な顔をして、田蛇の父を指さして、
「あんた、こんなこともわからんのか?発達障害だろう?」
田蛇夫婦は目が点になった。ようやく、
「なんでそういうことになるんですか?」
と父が言うと
「いい年のおっさんのくせに、女性への同情もできない、話を理解できないからだよ。あんた、発達障害者を、差別するのか!」
公務員の父はこのいう言葉に弱かったので、一瞬言葉に詰まったが、母には通用しなかった。
「兎に角、それは息子と関係ありませんから、連れて帰らせてもらいます。」
父はそれに力を得て、
「私のことは関係ないでしょう。息子を信じるのが親です。息子の話が、警察や目撃者の話と矛盾していたら別ですが、そういうこともない。あらぬ疑いをかけられては迷惑です。息子は連れて帰ります。」
父は震えていたが決然と答えて、妻と共に息子を連れてかえろうとした。
「それが嘘だって言うんだよ。俺は、警察からも、目撃者からも詳細に聴いて、何百ページもの記録をつけているんだ。何時だって、公開できるんだ。」
「今すぐそれを見せて下さい!」
母が叫ぶように言った。
「何時でも、誰にでもみせられるんだよ。弁護士も裁判でも、これだけ完璧な記録はない、参考したいと言ってきているんだよ。おっさん。分からないのかな、やっぱり発達障害の知識障害だろう。」
「だから見せて、今見せてと言っているのよ。」
母は繰り返した。
「分からないのかな?爺さん。ちゃんと証拠があるということなんだよ。」
何故か、彼は母に直接反論しなかった。
「兎に角、息子は疲労しきっていますし、夜も遅いので連れて帰らせてもらいます。」
父は断固した口調で言い、彼を無視して、妻と共に息子に肩を貸して教室を出た。背中に向けて、
「モンスターペアレンツになんか負けないからな!弁護士や、みんなが味方なんだからな!」
「大丈夫だ。」
「大丈夫よ。」
両親が耳元で囁いた。
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