18
「やめて」
奈津の声がした。
広場から乾いた銃声が聞こえる。
残る力を振り絞り、手すりの場所まで這った。横を見ると、坂井が喬志と同じように這っていた。
奈津が手すりを握りしめ、身を乗り出すようにして広場を見ていた。
喬志も広場に視線を走らせた。
忠海が、山車に登り、子犬を取り上げようとしていた。
また銃声が響く。
広場は混乱の極致だった。叫ぶ女。後ろから押され、倒れる男。その男を踏み越え逃げようとする子供を抱いた男。
倒れていた女が子供の足首をつかんで立ち上がると、かわりの生贄のように足首をつかまれた子供が倒れる。
女の子が泣いている。
その場にいるほとんどのもの――忠海、威嚇射撃を繰り返すガードマン、古の神話のとおり歌を続ける詩う者、何事かを叫んでいるアッリー・マナーフ、フィーを守ろうと抵抗するサミア――以外のものは、少しでも遠くへ、その場から離れようとしていた。けれど、あまりにも多すぎる人間が山車の周囲を囲み、強固な肉の輪を作っているため、その努力は少しも実っていなかった。
ガードマンは忠海が娘の近くにいるため、まともに狙えないようだ。
遂に犬を手にした忠海が、山車を駆けおりた。
人の輪が忠海を避けて、一瞬途切れる。そこを忠海が全力で走り抜けた。
歌は途切れることなく続いていた。歌声はいよいよ高く、激しくなっている。その灰色の衣を着た六人を押しのけ、更に忠海が前に進む。
不意に忠海が前方に手をかざし、棒立ちになった。
一筋の光が、忠海の顔に差していた。
太陽の頭がのぞいているのを喬志は見た。
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