17

 忠海は走った。

 人を押し分け、忠海は前に進んだ。

 スーニーを想った。

 まだ詩う者の歌は続いている。

 間に合うはずだ。

 それにしても人の数が多すぎる。

 ほとんど前に進んだ気がしなかった。

 焦るな。

 忠海は己に言い聞かせた。

 焦るな。

 かき分けて進む。

 進めないときは前を塞ぐ相手の背中に肘を叩きつけて、ひるんだ隙に身体を割りこませた。

 男が振り返って睨んだ。

 その男を殴る。

 後ろから腕をつかまれた。

 力づくでふり払った。

 忠海を中心に、小さな渦が広がろうとしていた。

 その渦に捕まるわけにはいかない。

 どうしても、前に行かなければならない。

 どうしても、辿りつかなくてはならない。

「どけえ」

 叫んでいた。

 声を出したために、皆が振り返った。

 すべての視線をはね返すように、もう一度叫んだ。

「邪魔すんじゃねえ」

 強烈な力が忠海を前に進ませた。

 スーニー。サンディ。これでいいだろう。

 復讐は果たせない。けれど、これが精一杯だ。

 おれはサミアを死なせない。

 決して。

 どんなことがあろうとも、たとえ死んだとしても、おれは間違いを正す。

 邪魔はさせない。

 まだ間に合うのだ。

 どんなことであれ、遅すぎるなんてことはないのだ。

 結果はまだ出ていないのだから。

 だから、スーニー、サンディ、お願いだ

 おれに少しだけ力を貸してくれ。

 このいつまでも続く人の壁を越えさせてくれ。

 正しきことを、おれに行わせてくれ。

 そのとき、忠海の視界が開けた。

 最前列にいた。

 山車の頂上に、フィーとサミアが見えた。

 他には何も目に入らなかった。

 世界には、自分とフィー、それにサミアしかいなかった。

「待ってろよ、スーニー」

 叫んだ。

 山車に向かって走った。

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