六人の男たちとウシャス

 昔々の話。

 そう、かのブラーマッダッタがベナレスの王であった頃の話。

 菩薩が覚りを得た地の北にある小さな村に六人の男たちが住んでおりました。六人は容姿もすぐれ、また性根も他の者に比べ秀でたものでしたが、なによりも声が素晴らしく、美しい歌をうたう者たちでありました。

 ある夜、六人が集まり誰が一番優れた歌い手であるか争うことになりました。

「まずは、おれが歌う」

 一人目の男が歌いはじめました。

 すると、歌に魅せられたように、一匹の犀が森の奥から姿を現しました。

「どうだ」

 一人目の男が誇らしげに言いました。

「なんの、次はおれだ」

 二人目の男が負けじと声を張り上げました。

 すると、歌に酔ったように、一匹の狒々が大木の上に姿を現しました。

「見たか」

 二人目の男が胸を張りました。

「なんの、おれの歌を聞け」

 三人目の男が悲しげな歌をうたいはじめました。

 すると、歌に操られるかのように、一羽の鷹が舞い降りてきました。

「ははは」

 三人目の男は声を上げて笑いました。

「なんの、今度はおれの番よ」

 四年目の男が澄み切った声でうたいはじめました。

 すると、歌に呼ばれたかのように、一匹の亀が湖の底から姿を現しました。

「上出来、上出来」

 四人目も男は悦に入り、うなずきました。

「なんの、まだまだぞ」

 五人目の男が、荒々しく吠えるようにうたいはじめました。

 すると、歌に突き動かされるように、一匹の獅子が駆けてきました。

「おう、見ろ、獅子だぞ」

 五人目の男は、喜んで手を叩きました。

「なんの、最後は俺だ」

 六人目の男が、月に届けとばかりに朗々とうたいはじめました。

 すると、歌に吸い寄せられるように、一頭の巨大な象が姿を現しました。

「歌にあわせて鼻をゆらしておる」

 六人目の男は、笑顔のまま、おどけて飛び上がりました。

 犀と狒々と鷹と亀と獅子と象は、おとなしくそこに座り、何かを待っていました。そこで六人の男たちは気がつきました。犀も狒々も鷹も亀も獅子も象も、六人が一緒にうたうのを待っていたのです。

 六人はつまらぬ争いをしたことに顔を赤くし、それからみなでウシャスを讃える歌を、心をひとつにしてうたいはじめました。

 すると、歌を楽しむかのように、首をゆらしながら白い雌牛が空から降りてきました。背には紫の長い髪、赤と黒のサリーを着て、黄金の装身具を身につけたウシャスが乗っていました。

『なんと素晴らしい歌をうたうのか、そなたたちは』

 ウシャスは微笑みました。

『楽しませてもらいました。どうでしょう、みなで一緒に歌いませぬか』

 六人はもちろん大喜びでウシャスとうたいました。

 すると、歌がそうさせる、とでもいうように犀と狒々と鷹と亀と獅子と象は踊りはじめました。時の流れを忘れ、みなは楽しみました。

 やがて朝になり、一番鳥が鳴きました。

 するとウシャスはひどく狼狽しました。

『大変。スーリヤが目をさましてしまう』

 七頭の金色の馬に引かれた車に乗って天空を馳せる太陽神スーリヤ。ウシャスの恋人であるスーリヤの嫉妬深さは広く知られている事実でありました。

『わたくしは急いで隠れます。もしスーリヤがここに来ても、そしらぬ顔で歌をうたってはくれませぬか』

 六人が約束すると、ウシャスは消えてしまいました。

 すると間を置かずに、スーリヤが姿を現しました。

『ウシャスはここにいるのか』

 六人はウシャスとの約束を守り、返事をせず、歌をうたいつづけました。

『言え、ウシャスはここにいたのか』

 スーリヤが一番目に歌をうたった男に言いました。

 一番目の男は答えませんでした。怒ったスーリヤは男の両足を太陽の炎で焼いてしまいました。それでも一番目の男は歌をやめませんでした。

『言え、ウシャスはここにいたのだろう』

 スーリヤが二番目に歌をうたった男に訊ねました。

 二番目の男も答えませんでした。怒ったスーリヤは男の両手を太陽の炎で焼いてしまいました。それでも二番目の男は歌をやめませんでした。

『言え、ウシャスはここに来たのか』

 スーリヤが三番目に歌をうたった男に怒鳴りました。

 三番目の男も答えませんでした。怒ったスーリヤは男の目玉を太陽の炎で焼いてしまいました。それでも三番目の男は歌をやめませんでした。

 四番目の男も、五番目の男も、六番目の男も答えませんでした。怒ったスーリヤはそれぞれの男の背中、腹、陰茎を焼き炭にしました。それでもみな、歌をやめませんでした。

『お前たちは本当に知らないのか。すまないことをしたな』

 そう言うと、スーリヤは天に昇って行きました。

 スーリヤが消えると、ウシャスが現れ、男たちの傷を治してくれました。

 そしてウシャスはこう言って、六人と別れました。

『親しき人と手を取りて歌をうたいなさい。さすれば村は多くの幸に恵まれることでしょう』

 六人はウシャスの言葉どおり仲良く、末永く歌をうたうことを続けました。村の者たちはスーリヤを怒らせたことを詫びるため村の名前をスーリニとし、ウシャスを讃える村となったのだそうです。

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