第50話「幼馴染が、オレのアルバイト先にやって来た件」

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 高校生になって変わったこと。

 それは、アルバイトを始めたというとこだろうか。


 今までは親からのお小遣いやら正月に貰えるお年玉やらで日々趣味に没頭していたわけなのだが、日に日に購入したいラノベが増えてきたこともあって、到底それだけでは回しきれないほどになってしまった。要するに――金銭管理が出来なかったのだ。非常にダサい話だがな。


 毎度の如く本屋の前で項垂れるオレに呆れを覚えたのか、美穂が『バイトでもしたら?』と薦めてきた。

 本人曰く『金銭管理がしたいなら、実際に自分で稼いでみるのが手っ取り早いんじゃない?』とのこと。真っ当ではあるが、遠回しにオレのことののしってるよな……完全に。


 しかしながら、割と融通の利く職場であったため、基本的にシフトを入れるのは休日のみ。平日は学業を優先しろとのことで、美穂との時間の確保だけで言えば最低限で済んでるんだろうな。


 ……それに、美穂自身、あまりお店に顔を出すことがないことが1番の懸念点だ。


 ただ、理由は訊かずともわかる。

 オレのバイトを邪魔しないため、なんだろうな。何となく想像出来るかもしれないが、もし美穂がここにやって来たとしたら、オレの性格上そっちにばかり目がいってしまい、集中力が途切れてしまうと踏んでいるんだろう。……事実、そうだろうから何も言い返せない。


 いや、それに関しては美穂が可愛いのが悪いんだ。

 オレは何も悪くない。はい、閉廷。


 ……まぁ、そんなこともあり、本日もまた、彼女の声が響かないアルバイト先で何時間もの労働に勤しんでいるわけだ。


 オレが働いているのは、有名なハンバーガーチェーン店。


 平日・休日に限らず多くの客が訪れるお店なため、研修中はあまりの仕事量に苦戦させられた。が、それはもう過去の話。アルバイトを始めて約3ヵ月――まだ始めたばかりなのに変わりはないが、それでもだいぶ慣れてきた方だ。


 それに、昔から『人当たりが良い』と先生達からもよく褒められていた。

 あのときの技術が、こんなところで役立つとは思ってなかったな。


 ただ、時折店長からは『大丈夫? 愛想を振りまくのは自由だけど、あんま無茶だけはしないようにしなさいよ』と呆れ言を言われてしまった。


 厳しいところもあるが、致命的なミスさえ起こさなければ、たとえ学生バイトの身分であるはずのオレにもちゃんと目を向けてくれる。良い上司に恵まれたと思う。


 社会人になったら、是非とも店長のような人になりたい。

 バイトの中で芽生えた願望だった。


 そして……今日もまた、忙しいお昼時を迎え注文に用意にと厨房はバタバタ状態。


 未だにこの時間の立ち回り方は混乱する。とはいえ、今の時間帯は熟練の人達ばかりで、ケアレスミスをすることもなく、その時間は慌ただしく過ぎ去っていった。


 やがて列も落ち着きを取り戻し、オレは注文カウンターで待機中。

 ラッシュが落ち着いたといっても、客が全員ひいたわけではない。それにこの店は駅前。そのため、お昼時が過ぎたとしても、どんなに遅い時間だったとしても、客足が絶えることは稀なことだ。


「…………」


 時刻は14時半。

 オレは客が誰もレジ前に並んでいないことを確認してから、ある一席に視線を向ける。


 その席は注文カウンターからすぐ近くに設置されており、そこにはある1人の女子高生が席に着いていた。

 白のキャミソールの上に薄めのパーカーを羽織り、下はショートパンツに足は白肌を強調するかのような見事なまでの素足。茶色のサンダルを履き、もうすぐ訪れる夏に備えた完璧な夏コーデフルセット。


 普通に考えれば、流行と季節感を先取りした今どきの女子高生……といった感じに見えるだろう。


 ……そう、、な。


 するとその女子高生は席を立ち上がり、鞄から取り出したであろう財布を片手に、真っ直ぐオレのいるカウンターへと歩を進める。


 服装以外に観点を置くのなら、胸はほどほどにある程度。髪の毛はいつも通りのポニーテール(高め)。……はい。ここまで言えばさすがにわかるよな?


 他の店員からすればたくさん訪れるお客様の内の1人。しかし、オレからしてみれば、顔馴染みにも程があるほど馴染み深すぎるお客様——。


「すみませーん! バニラシェイク、1つお願いします!」


「…………何でいんの、美穂?」

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