第59話「幼馴染に、私以外の出会いが訪れたらしい②」
私は
心の中で微かに『引き留めてくれるかな』と願っていたが、そんな淡い期待は彼は持ち合わせていなかったらしい。
私は晴斗に近づく女子や友達には嫉妬するっていうのに、晴斗には私が他の男子と話すという1つの状況に何の躊躇いも無いのだろうか。以前、私の不注意で晴斗が初めて嫉妬したっていう事件(?)があったけど、それ以来――晴斗が『誰か』に嫉妬しているような様子は見受けられないし……元々表情からだとわかりにくいっていうのもあるかもだけど。
……やっぱダメだ。すぐに戻ろう、また決意が変な方向に傾いちゃう。
晴斗の傍を離れ、私の周りにはほとんど顔も認識していない奴らが集まった。……烏合の衆ですねこれは。
男女問わずいろんな人達から好意を持たれる私だけど、今回ばかりはこの神様特権に腹が立つ……! 何しろ私から晴斗と話す時間を奪ったという罪があるのだから。有罪。
「――一之瀬さんって、出身中どこなの?」
「――趣味とかありますか?」
「――こ、今度一緒に帰ってくれませんか!?」
……なんて、私の心境を知る由もない人達は、四方八方から質問を投げる。というか最後の一個は絶対にない。知らない人には着いていくな、常識だから。って、私が言える台詞じゃないか……。
この人達の認識的に、私は“何でも”出来る完璧超人だと思われてるんだろうけど、実際はそうじゃない。本物の完璧超人は……どこにもいない。
初めての恋愛。
幼馴染との一線の越え方への疑問。
これ以上、大事な人を傷つけたくはない……そんな恐怖。
私なんて欠陥だらけ。恋愛事になったら私は引っ込み気味だし、今だって『聞いても大丈夫か否か』と、疑心暗鬼が繰り広げられている。
誰も近づいちゃダメ、誰も触れちゃダメ。……実にエゴに塗れた独占欲だことで。
だけど、晴斗もこんな気持ちを抱くことがあるのはもう知っている。
私のような、醜くとも相手を束縛してしまいたい。そんな独占欲とは天と地の差があるだろうけども。
ラブコメが繰り広げる『恋愛』は、独占欲こそが自分が恋人に示せる最大火力の恋愛表現……みたいな部分があるけど、実際正しいかと言えばそうじゃない。
丸出しの恋愛表現が、その人にどんな感情を植え付けることになるのか。
大事に想っているからこそ、独占欲は表に出しちゃいけ ないものだと。
…………本当に面倒だな。過去も、未来も、今現在も。全ての時も決定された道さえも、修正出来るようになればいいのに。
やり直せたらいいのに。いっそのこと、あの過去が消えてなくなればいいのに――。
「ごめん、そろそろいいかしら? 少し席を外したいんだけど」
「あっ、はい! ご無理を強要してしまい、申し訳ありません!」
1人の男子がそう言って、私を取り囲んでいた1人が道を開いてくれた。私はどこぞのご令嬢でも何でもないんだけど……。何だろう、このVIP対応……。
おそらく『新入生代表挨拶』や今の会話での敬語口調なんかを考慮され、私への噂は外国にまで進出している社長のご令嬢だか何だかに昇格してしまったらしい。
いやいやいや……少女漫画にありがちな展開だけども、私はれっきとした庶民ですはい。
噂が広まるのは別にいいけど、変な噂だけは勘弁してほしいな。
こんな調子じゃ、幼馴染として広がっている私と晴斗が普通に接せられるのも、一体いつの話になることやら……。
「……お風呂のときもそうだったけど、今日1日、ずっと休める時間に休めてないなぁ」
多勢な群れから抜け出し、私は重苦しいため息を吐いた。
そしてその疲れ切った足で向かっている先は、あの場で読書をし続けているであろう晴斗の方だった。
こういうとき、好きな人の傍に居たいと思うのは当然のことなんだと思う。
それに晴斗は幼馴染でもある。重ねられた時間は揺らぐことはない。噂は所詮噂というように、私が抱く晴斗への感情は幼馴染以上のもの。
幼馴染としての時間。恋人になってからの時間。――全てが晴斗と過ごした時間。
だからこそ居心地が良い、気持ちが落ち着く、一緒に居て楽しい。
そう思うのは、至って普通の心境だろう。
「……あ、いたいた」
無駄に広い宴会場を歩き回り、人を避け、先程晴斗とわかれた場所へと戻ってきた。
そこには相も変わらず、片手に本を持ち、楽しそうに1人の世界を冒険している晴斗の姿があった。……本当、ああいうところは昔と何も変わらない。
「晴斗、おまたせ――」
と、声をかけようとした瞬間だった。
疲労などで視界が狭まっていたのだろうか、私が顔を上げた瞬間に視界へ突如入ってきた見慣れない『人影』に、思わず言葉を呑み込んでしまった。
「…………れとも、女の子に興味がないとかですか?」
「別にそんなこと思ってない。というか、そういう女子の魅力全面否定なこと言うの、女子のお前が言うのおかしいだろ」
「そうですかね? まぁ、言われてみればそうかもです」
「変な奴だな」
「そっくりそのままお返ししまーす!」
……とても信じられない光景だった。
喉元に突っかかった言葉が、最早何の言葉だったか忘れるほどに衝撃的で……今までの晴斗には、到底信じられなかった光景だった。
だって、あの晴斗が……。
だって、あのぼっちキャラを貫いてた晴斗が……。
名前も容姿もまったく見覚えがない女子と隣同士に、仲良く話している光景を見せつけられてしまったのだから――。
…………ねぇ、覚えてる?
もし、晴斗の隣を堂々と歩けるような人が現れてしまったら――って。
そのときはきっと、私の席は……どこにもないってことを。
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