第44話「学校行事とはいえ、面倒なのは面倒だ」

 午前の飯盒炊爨も終わり、ここからは午後のチーム戦にての説明がされる。


 簡単に言えば、スタンプラリーそのものだ。

 このキャンプ場の敷地全て(一部エリアを除く)を使って、班ごとに特定場所に置かれたスタンプを渡された用紙に押し、それを元に点数を競い合う。というルール。


 正直この説明を聞くだけで面倒そうだと、僕は瞬時に悟った。


「――説明は以上です。それでは各班、指定された時間以内には全て押し終わっていなくとも戻ってくること。では、解散!」


 キャンプ場から少し離れた広場にて先生からの説明を受け、各班ごとに集まる。

 集まり終え、話がまとまった何グループかは既に敷地の奥へと歩みを進めていた。


 基本的にはスタンプを集めていく形式だが、その『目的地』へと辿り着くには同時に配布された1枚の紙に書かれた暗号……という名のなぞなぞを解く必要があるらしい。


 まぁ単純にスタンプを集めるだけでは気落ちもしただろうし、謎解きという要素を加えることで“チーム戦”らしさを生み出しているのだろう。

 学校側もいきな計らいをするものだ。


「さてと。オレ達もそろそろ出発するか! 制限時間はおよそ1時間。それ以内に、何とかゴールしないといけないな」


「でもその前に、1つ目の謎を解かなきゃでしょ?」


 そう、佐倉さんの言う通りだ。

 このスタンプラリーは単純な構成で作られていない。ただの収集要素であれば、苦労はすれど困難ではない。しかし、このスタンプラリーだと話が変わってくる。


 謎を解かなければスタンプを得るためのヒントは掴むことすら難しい。他の班が暗号を解いた途端――その班に着いて行くような姑息な手段も出来てしまうだろうが、僕も、そして3人もそんなことは眼中に無いだろうな。


 とはいえど、僕達のクラスは完全なる『運』で決まった班。チームのまとまりや信頼度は未完成のところがほとんどだ。寧ろ僕達のように知り合い同士で成り立ったところというの方が少ないだろう。……神の子、恐るべし。


 だがこういうところでチーム力と信頼度を高め合うことが出来れば、それこそ目的達成に大いに近づける。


 まさしく、ハイリスクハイリターン。

 教師全員が『姑息な手段』をすることを考慮していたことにも頷ける。


 憶測が立てられないわけじゃない。予想出来ないわけがない。敢えて注意事項で『相手チームの暗号解読を利用とした突破方法の禁止』を言い渡さなかった。


 おそらく、失格条件は無いのだろう。

 となれば失格の対象となる条件はただ1つ。


 合ったとしてもそれは『制限時間』を対象とした、論理的な条件のみ。……公立校と言えど進学校。生徒の策略や思考力を図るのにこの行事を利用しているとしか思えない。

 ……進学校ってのは、どこもかしこもこういうものなのか?


 だからこそその渦に、進んで突っ込むようなことはしない。そんなの、自ら台風に突っ込むのと同じく愚かなこと。勇気がある……それは、使い方が明らかに間違っている。


「――でさ、ここが……っておい。何1人だけサボろうとしてんだ、お前も参加しろ!」


「嫌だ面倒くさい」


「素直だな相変わらず、嫌な意味で。つーか、お前だったら簡単に解けるんじゃねぇの?」


 協力プレイを放棄する気ですかこいつは。


「……何故僕の単体プレイにさせる気なんだよ」


「別に単独にしよう、なんて誰が言ったよ。オレが知りたいのは、現状まででお前がどこまで解けているのか知りたいってだけだ。あ、答えは論外な?」


「あっそ……。まぁ少しぐらいならわかった、大した問題でもないし」


「そうなの? パッと見、すぐに解けそうにないんだけど」


「必要なのは『頭の柔らかさ』だよ。普段のテストとかに求められるのは『知識』と『頭の回転の速さ』だけど、これにそんなのは必要ない。如何にして柔軟に考えられるか、それが大事だと思う」


「頭を柔らかく?」


 僕の言葉に反応を示した佐倉さんは首を傾げて再度問う。


「普段物事とか勉強するときとかって、どちらかというと頭を固くしてしまう傾向があるんだ。でもそれは、決まった手順があってそれを“しよう”と無意識に脳を働かせてるからなんだ。何かをしようと頑なに考えたり、問題を解こうと眉間にしわを寄せれば余計に脳は働くことになる。まぁつまり――何かを真剣に取り組もうとすればするほど、視界はんだ。テストを受けているときとかが1番わかりやすいと思う」


「……あぁ~! 確かに問題を解いてる最中とか、何かしてるときとかって、意識を他のものに向けようとする方が難しいもんね。それが、視界が狭まってるってこと?」


「簡単に言えばだけど。だから、頭を固くする知識とは違くて、これは頭をソフトにしないと解けない。余計な思考は振り払って視界を広く持たないと、この問題は解けない」


「IQテストみたいなものかな。あれも単純な知識だけじゃなくて、どれだけの『発想力』が持てるかが重要だから」


「そういうことだな」


 物事を柔らかく考えられないのは、人間の悪い癖だと言える。

 元来、人はある程度の思考の量を処理することの出来る生き物だが、それが余計に物事を深く考える――つまり視野を広く持つことの重大性を、人から奪っていたりする。


 先程も言ったように、決まった手順さえあればそれを“しよう”と無意識に脳を働かせる。そしてそれが、自身の視野を狭めると同時に、脳が処理しきる、理解する幅を狭めているのだ。


 ……だから僕は、こういうことに向いていない。

 どうしても頭の回転は『知識』の方へと偏り、可能性の幅を狭めることとなる。何せ僕が得意なのは『思考力』。どちらかと言えばIQテストは不得意だが、高校生でも解けるようになってるし、範囲も『広場』までとかなり狭い。


 正直、今回は場所に救われた感がするな。

 ……僕も少し理解力の勉強をするべきだろうか。

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