第45話「……ダメだ。この幼馴染に勝てる気がしない」

「…………」


 僕は手元のプリントへと視線を落とす。

 ――さて、話を戻すとしよう。


 このスタンプラリーで配布されたのは、班ごとに一枚ずつ渡された『スタンプ手帳』と、各自に1枚ずつ渡された『広場の縮小地図』だ。

 そこには、それぞれのスタンプの場所を示すヒントの『単語』が記入されている。

 ……うん、なぞなぞっぽいな。


 そして僕達が今探そうとしているのは、最初の問題。ヒントの単語は『池』に『生き物』に『定位置』とのこと。


 この縮小地図によると広場にはそこそこ大きめな池があるらしい。この地図だと具体的な大きさなどはわからないが、おそらく『池』はこの場所で合ってると思う。


 この考えを持ったのはおそらく僕だけでなく、先に進んでいった班も同じ考えを持っていることだろう。……でも、これは解けそうにないな。


「ねぇ、晴斗はもうわかってるの?」


「……まぁ、うん」


「じゃ、じゃあさ、何かヒント頂戴?」


「ヒントだったらプリントに書いてあるだろ」


「そうじゃなくて! ……その。は、晴斗の意見を直に聞きたいっていうか、あっ! もちろん答えは自分達で見つけるよ! だ、だからさ……力だけでも、貸してくれない?」


「…………………っ、んん……………っ」


 ……この幼馴染の上目遣いを反則だと感じるのは僕だけか?


 昔から周りに好かれる奴ではあった。渚が望まなくとも勝手に周りには人が集まり、そして第三者からの偏見が作られる――。

 だがその偏見の中にも、間違っていない箇所は存在する。


 それは、この完全無欠な美貌を持った幼馴染の台詞に、一体誰が逆らうことが出来るだろうか? ということ。……答えは単純。「無理だろ。」


「はぁああ……」


 僕は渚からの視線の圧に感服され、少し頭を抱えてしまった。

 ……ダメだ。この幼馴染に勝てる気がしない。


「……ヒントだけだぞ」


「うん!!」


 眩しいから笑顔を見せないでくれ、日焼けする!


「……どこまで解けてるんだ? それによって、だいぶヒントの出しようが変わる」


「えっとね……」


 渚は自分が持つ地図を地面に開き置いて、それを囲むように僕達3人はその場に座る。


 これはチーム戦、個人戦ではない。そのため、透と佐倉さんもその輪に含まれている。とはいえ野郎ははぶいても自力で解けるだろと思うんだがな。


「まず、最初のこの『池』っていうのは、地図に描かれてるこの池のことでしょ? それで次の『生き物』は、おそらくこの池にいる生き物のことだよね。パンフレットにも「いろいろな生き物が住んでる」って記載されてるから間違いじゃないと思う。それで問題は『定位置』なんだよね……。これがわからないかな……」


 マーカで印を付けながら、渚は現状わかっていることを一通り説明してくれた。


 ……なるほどな。着眼点は良い方だ。

 たった3つしかない単語のヒントを頼りにこれだけ考察出来ているなら十分だ。後はその辺りを隈なく散策するだけ。――と、言いたいが、これじゃあ“完全に解けた”とは言えない。きっと渚ならそう言うだろうな。


『やると言ったものは必ずやり通す』――一之瀬渚の絶対的理念であり、自分が完全に納得しなければ物事を諦めることをしない。それが彼女の努力の結晶と言えるのだろう。

 今度の期末テスト、油断出来そうにないな。


「なるほどな。透は?」


「オレも一之瀬と同じくだ。3つ目のヒントに行き詰ってる。美穂は……察してやれ」


「ちょっとそれどういう意味よ!!」


 確かに僕達の成績を比べるなら佐倉さんが一番低いが、言うて総合20位だぞ。絶対近い将来、お前の成績抜かしそうだな。何しろ、彼女に勉強を教えているのは渚だ。妹の優衣の専属家庭教師をしているだけあって教え方も、ノートの取り方も上手い。


 油断し、いつまでも見下していたら、あっという間に追い抜かされるぞ。


「本っ当、最低よねこいつ!」


「じゃあ何で付き合ってるの……?」


 渚の疑問が尤もすぎてこいつをフォローする言葉が見当たらない。する気もないが。


 幼馴染だから……というのもあるんだろうが、実際のところどんな理由があるのかは聞いたことがないから知りようがないんだけどな。


「はぁ……、ごめんね凪宮君」


「別に気にしてない。こいつがやかましいしウザいと思うのは今に始まったことじゃない」


「お前の中のオレへの評価って、どんだけ悪いんだよ……。ってか、何かないのか、晴?」


「……ヒント、ねぇ」


 先程の主張を聞くに、透はおそらく渚が説明したところまでは理解しているし解けている。だが、ヒントの1つ――『定位置』につまづいて進めていないってところか。


 確かにこのヒント、この問題を解くのに重要なキーではあるんだろうが少しタチが悪い。

 この1個だけに視界を奪われていては、このヒントの本当の意味は理解出来ない。


 そのために、このヒントを説明するに当たってはこの問題の“解説擬き”のようなことをしなければならない。

 ……さて、どうしたもんかな。

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