第32話「幼馴染たちは、作戦会議を始めるらしい①」
◆一之瀬 渚◆
「――以上が、来週の宿泊研修にての注意事項となります。ではここからは各班ごとの作業に移ります。先程説明した通りに手順を進め、終わった班のリーダーはわたしのところへ報告に来てください」
波乱万丈だった中間試験はもう既に過去のお話。
鬼門のテスト返しも終わり、私達新1年生は新たな行事に取り組もうと動いている。
そう、宿泊研修。通称『オリエンテーリング』である。
高校生活にも慣れ始めたこの頃、クラスメイトとの交流はもちろんのこと、他クラスとも協調性を高めようという取り組みから成るこの行事。
私はまだいいものの……隣の席に座る幼馴染は、もう撃沈している。早いなぁ。
「お前ってトコトンこういう集合型行事に弱いよな」
「寧ろ集合型じゃない学校行事って何だ」
「そりゃあ、書き初めみたいな個々で成り立つ行事だろ。そういうのには意欲あるくせに、どうして『全生徒』とか『全学年』とかが付くとダメになるんかね~?」
「……勝手だろ。全員が全員、お前みたいな悠々としてるわけじゃないんだ」
後ろの席に座る藤崎透君にからかわれる幼馴染、凪宮晴斗。
彼は人混みが激しい場所などを好まない。それは、彼自身の引き篭もり体質が引き起こすものなのか。はたまた、違うものなのか――定かではない。
ただはっきりしていることは、その原因を作ったのは『私』だということだけ。
「ま、こんな話しててもしょうがないし」
「誰から始めたのかお忘れのようだな」
「――よっしゃ! それじゃあ、とっととリスト作り上げようぜ!」
晴斗の言い分をスルーし話を進める藤崎君。……晴斗、毎回大変だね。
以前席替えをした際に、私と晴斗、そして藤崎君と佐倉さんは偶然にも隣同士かつ前後の席となった。運命の悪戯というのかもしれないけど、とりあえず神様、ありがとう!
そのお陰も相まって、私達四人は同じ班となった。
2泊3日の宿泊研修。
その期間中、全く話したことがない人といつも話している人。どちらの班に入りたいか、と聞かれたら後者が大多数を占めると思う。
それに、関わりが深いメンバーと一緒にいた方が気楽でいいもんね。
「藤崎君、何だか楽しそうだね」
「学校行事に限って元気いい奴とかっているじゃない? 透は、ああいう系だから」
「そうなの?」
どちらかと言えば、行事ごとに限らず青春を謳歌してる組だと思うのだけど。
佐倉美穂さん。藤崎君の幼馴染であると同時に、カノジョでもある。
そのためもあってか、下手すれば晴斗よりも藤崎君のことを罵倒してる気がしなくもない。
「渚ちゃん、つい数日前のあいつを思い返しなさい? ほら、あんな感じしてた?」
「……えぇっと」
私はつい数日前――要するに、まだテスト期間であった頃。
今現在目の前で遠足気分満載のようにはしゃぐ彼とは打って変わり、テスト期間中の彼はというと……「やる気になれん……」と、上位陣をキープする晴斗に対し、睨み付ける攻撃を繰り返していた情景が浮かぶ。
「……うん、そうっぽいかも」
「でしょ~?」
「こらそこ! 何人の悪口で盛り上がってんだ!」
「お前があまりにも幼稚すぎる言動をしたせいなんじゃないか?」
「行事ごとではしゃぐことの何がいけねぇ。楽しみでウキウキする、ドキドキする。んなの、高校生になったところで変わるもんでもねぇだろ?」
「小学生かよ……」
「歳を考えなさい、って言ってんの。日本語ワカリマスカー?」
「くっそ腹立つ! 特にその
何気ない日常のやり取りを繰り返していく3人。
藤崎君の無邪気な反応に、晴斗の口角が少し上がっているように見えた。
……珍しい。一言だけ、心の中で呟いた。
中学1年生の1学期。
同じ委員会という繋がりがあったお陰か、藤崎君は晴斗が教室内で唯一話す友達になっていた。その過程で何があったかは定かじゃない。でも、晴斗が藤崎君に向かって「あほ」と言い放ったときは、何事かと頭の中を駆け巡った。
本当……何があったんだろう。
訊いてみたい気もするけど、応えてくれるかは私にもわからない。
「ったく、冷てぇよなあこいつら。少しはオレのおふざけに付き合ってくれてもいいと思うんですがー」
「散々付き合ってるだろ。それに、深追いしすぎると暴走するからやなんだよ」
「人を暴走列車みたいに言うんじゃねぇよ!」
「ある意味合ってるだろ。寧ろ適切な表現だと思うけどな」
無論、同じ委員になったからといってコミュ力皆無な晴斗が真反対な性格である藤崎君と、意気投合していたわけじゃない。
教室で藤崎君から話していた光景はあったけど、晴斗からは1度も無かったし。
……いいな。2人は教室内でも何でも言い合えるなんて。
ズキッ、と胸が痛みを帯びる。
しかしその痛みも一瞬で引き、原因が何だったのかはわからなかった。
「こーら! 2人して討論しない! 計画立てるんだからそこまでにしなさい」
「元の流れ作ったの美穂だった気がするんだけど?」
確かに、最初の流れを作ったのって佐倉さんだった気がする。
けれど彼女自身にその自覚はないらしく、きょとんとした顔を浮かべていた。
「……はぁ。まぁいいや、とりあえず話の方進めようぜ?」
「最初からそうしなさいよ」
「だから美穂が主犯なんだってば!!」
2人のやり取りに頬が緩む。
幼馴染であり恋人同士。私と晴斗とまったく同じ状況である2人だけど、やっぱり私達とは決定的に違っている。周りの目を気にせず堂々とするなんて、私達じゃ出来やしない。
「(……ちょっと、羨ましいな――)」
いつか私と晴斗にも、あの頃みたいに戻れるのだろうか――。
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