第四部

第31話「幼馴染との関係が歪んだ、あの夜までを」

 ◆凪宮 晴斗◆


 旅行とは鬼門の道。

 開口一番で言わせてもらう台詞としては重いと感じるかもしれないが、これはれっきとした事実である。


 中学生や高校生と、歳相応の学年へと繰り上がるにつれ、同様に学校内での行事ごとも増していく。全学年共同行事である体育祭や合唱祭、それから外部の人達も参加出来る文化祭などの行事とは別の、学年ごとの行事の数が増していくものだ。


 これは、僕こと――凪宮晴斗が中学生時代に行った行事だが、3日間にも及ぶ職業体験という社会勉強を行う行事があった。

 あれは学年ごとに分けられる行事の1つだ。

 年間を通せば1年から3年の間にある行事数に変化はさほど大きくは見られないが、それでも1つ、2つの差というのは中々に憂鬱なものだ。


 ――では、僕から君達へ質問するとしよう。

 君達が好きだった、楽しみだった行事というと何が思い浮かぶだろうか?


 人によって個人差はあれど、多くの生徒が印象に残る行事と言ったら――やはり、泊まりものの行事ではないだろうか。


 ……だが僕からしたら鬼門への道。同じ学校に通う人達とは言えど、まだ入学して日も浅いこのタイミングで泊まりだなんて、最早罰ゲームだ。

 僕の両親も『仕事』と銘打って『旅行』をよくしている仲良し夫婦だったりするのだが、生憎と僕にはその良さがわからない……。休日ニート舐めるなこら。


『きっと楽しいよ!』と、泊まり行事に憂鬱となる僕に言い残す幼馴染が居たりするのだが、林間学校や修学旅行。楽しかった旅行は過去1度もない。

 むしろ今すぐゴーホームしたかったぐらいだった。


 だからこそだろうか。

 特別な泊まりかけ行事が近づく今日この頃。クラス内がざわめきつつある中でも、僕には皆が言う『楽しみ』『嬉しさ』などの感情にイマイチ同感出来ない。

 ただ単に決まりを守って行動し、そして最終的に帰宅する――僕にとってはその繰り返しだ。


 今回の宿泊研修に関してもそうだ。

 別に僕はクラス内や他クラスとの協調性やら何やらを、わざわざ泊まり込みで学ぼうとも思わない。僕はただの、いちクラスメイトであるだけ。それ以上の深掘りはしない。


 それが自分にとっての最適解であり、当たり前であったように――。


 人一倍、他人と距離を置く僕がそんな陽キャの化け物のような『あいつ』と同等なことが出来るわけもない。……いや、違う。昔は出来てた、あいつと同じことが。

 過去にあったことを克服しようと思っても、幼い頃に根付いた『人間の本心』というのは、自分の中では容易く変わらない。


 過去のそういう経験がある以上、僕はこの宿泊研修に期待を持ちたくなかった。

 きっと今回も同じだろう。

 期待をするだけ無駄。……何て、言葉通りに思い出の欠片も産まれさせない感じに。


 ――そう、高を括っていた。




「私と……別れて、欲しい」




 考えもしなかった。思いもしなかったのだ。

 ……この宿泊研修が、僕と彼女の関係をとも知らずに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る