第9話「幼馴染たちは、席替えをする②」
とはいえ、あくまでもこじつけに過ぎない。
今まで築いてきた『他人関係』を貫けば、何の問題も無いのだろうが……今の僕と渚は、クラス中に『幼馴染』だとバレている。
カースト制度というものが存在する『裏社会』にとって、僕は渚より圧倒的下位の人間。
どちらを信じるかと問われれば、まさしく渚だろう。
……妬んではいるこの制度も、少しは渚の役に立っているらしい。
『それはそれは、困ったもんだな――13:36』
『……むぅ。絶対困ってないでしょ――13:37』
『当たり前だろう。僕ぐらいのレベルになると、打開策ぐらいいくらでも思いつくんだよ。覚えておいた方がいいぞ?――13:39』
『うぅぅ~! この天才児め……っ!!――13:40』
恨みの籠もったメッセージが届くと、僕は少しだけ苦笑いを浮かべた。
……天才児、か。
お前にとっては都合の良い言葉なのかもしれないけど。僕にとっては、最も遠い言葉だ。本物を見てきた影響なのだろう。
だからこそ実感も感覚も湧かない――僕は、渚の思い描く天才児ではない。
あまり自慢するべきことではないのだが、小中学生が受ける全国模試。僕は中学3年生の頃、総合点数の順位で2桁、厳密には20位以内を獲得した。
とはいえそのとき狙っていたのは一桁だった。
自分の立てた目標を目標とも思わず、構わずに先を進む『天才』よりも僕は劣っている。目標に添えない結果を出してしまったのは事実で――間違いも無ければ、採点ミスでもない。人の手ではなく、コンピューターが採点しているのだからほぼ百発百中でミスはない。
……あのときは、めっちゃ悔しい思いしたっけか。
けれど。だからこそ僕は――この幼馴染の期待とやる気を奪うわけにはいかないのだ。
僕のことを『天才』と信じる彼女を、裏切れない――。
『んで、用事って何だよ――13:41』
『用事ならさっき送ったじゃない――13:41』
『はっ? いつそんなの送ってきたんだよ、見覚え無いぞ――13:42』
『いつって……さっき、としか言いようがないんだけど?――13:43』
僕は半信半疑の状態のまま、渚とのメッセージのやり取りを遡っていく。
すると、つい20分前のやり取りの中に、それらしいメッセージを発見した。
そこには『席替え、一緒の班になれるといいね!』と既読無視をした見覚えのあるメッセージの『痕跡』が残されていた。えっ……用事ってまさかこれか?
僕と渚の席はまさに
だからこそ、完璧に『嫌だ』と返信出来ないところが辛い。
『どう? その反応を見るに、見つかったとみるけど!――13:45』
僕に構う暇があるなら先生の話でも聞いてやれって……僕の言えた台詞じゃないが。
そうこうのやり取りが展開されている間に、担任の先生からの席替え方法などの説明とクラスメイトとの意見の論争は決着がついていた。お疲れ様です。聞いてなくてすみません。
先生は黒板に一通りの説明を書き終えると、そのまま僕達の方へと振り向いた。
「――それでは、先程説明した通り、この席替えによって今月行われる研修の班を同時進行で決めていきます。ほとんどがクラスでの行動になるので、心配は要りません。また、今回の研修では『交流会』がメインとなるので、この機会にいろんな人と関わってくださいね」
パチン、と先生は区切りの合図を出す。
――さて、話を戻すとしよう。
先程からの渚のやり取りの中での『班』というのはどういうことか、何のことだと疑問が出ていることだろう。
季節は5月。
クラスの雰囲気や新生活に慣れ始めてきた頃。そして……この後に待ち構える、新入生だからこそ行う価値があるとされる行事が、この高校には存在する。
そう、新入生オリエンテーリング。通称『宿泊研修』である。
この高校では毎年、高1の新入生全員で、2泊3日の泊りで親睦を深め今後の学校生活をより良いものにする宿泊研修が行われる。
そして、その研修に必要になってくるのが『班決め』となるわけだ。
各自で自由に組むというのも意見に上がったらしいが、どうやら先生曰く「いろんな人と関わりを持ってほしい」とのことで、この席替えで班決めをするらしい。
多少のいざこざはあったようだが、透や佐倉さんなどの陽キャ中心に反論は収まり、全員納得したようだ。
陰キャの僕からすれば有り難い話だ。
各自で自由に組むということは、必然的に『余り者』が出るということ。そしてそれは、晒し者となることが一般的。……そうならなかったのは、非常に有り難い限りだ。
肝心の班人数は4人。黒板に書かれたように『近い席の人達と組む』枠が出来ているため、間違って違う班の人が来る、ということも無いだろう。
もちろん、班以外の人達と関わる機会もゼロというわけではないが、原則としては班行動が基本――つまり、僕にとっては苦痛行事になること確定というわけだ……。
……あいつらが羨ましい限りだ。
「それじゃあ、一之瀬さんからか
先生は話を次々と進行させていき、やがて席替え順決めへと移行した。
そして出たよ……、席替え恒例の前半後半を分けるじゃんけん大会。これほどクラス中が熱血するじゃんけんって、給食の残り物取り合いの他だとこれしか思い当たらない。
先生に指名され、先頭に座る渚と後方に座る渡辺が立ち上がる。
渚は『い』から始まる苗字なため出席番号は1番。
トップカーストでありながら出席番号でも一番を勝ち取っていくとか……神様は、本当に人類に平等であるのかと疑いたくなってくる。
じゃんけん大会の結果――勝者は渡辺。即ち、後方からスタートとなった。尤も僕の出席番号は真ん中のため、どちらからスタートしようと変わりはしない。言うて少し引くのが早くなるだけだ。
僕は自分の番が回ってくるまでの間、机の中からラノベを取り出して読み進めていると、またしてもスマホに通知が届く。……またあいつか?
深いため息を吐きながらも僕は片手でスマホを手に取るが、画面に表示されていたのは見慣れた渚のなの字も無い、全くの別人からだった。
『オレ、窓際の2番目だったぞ!――13:50』
と、元気の良いメッセージを送ってきたのは、僕と同じラノベ好き『藤崎透』だった。
基本的には真面目な男なのだが、僕という存在が介入するだけで性格は一変し性悪へと捻じ曲がる。はっきり言おう――こいつと僕は噛み合う性格じゃない。
だがこうして関わっているのは、僕が本心では透を信頼しているから。
肝心なところで必要なアドバイスをくれたり、助けてくれたりと、先日の一件と言い助けられたことに違いはない。……まぁあのときは、少しだけで主佐倉さんが助けてくれたが。
……まぁそんなことよりも、だ。
もっと重大かつ大事な案件が出てきてしまった……。
――こいつと近くの席には絶っ対なりたくないっ!! と、心の中で叫んだ。
前述の通り、僕は透のことを信頼しているし、僕にとっては唯一無二の友達かもしれない。だがそれ以上に、こいつ以上にウザくて面倒でうるさい奴を、僕は他に知らない。
絡んでくると本っ当にねちっこいのだ! 勘が鋭いだけに、僕の本心にもすぐ気づく。
それが『迷惑』とまではいかないものの、透のようなタイプには少し苦手意識があるからか、僕はあいつのような友達は二人も要らないと思ってしまう。……きっと、あいつが読書好きじゃなかったら、今もつるんでいない。
それと、先日の件で少し好感度下がったしな。
早く友達から、ただの知り合いに降格した方が身のためな気がした……。
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