第四部
第63話「僕は、友達にデート前の下準備をされる①」
◆凪宮 晴斗◆
僕――凪宮晴斗には、絶賛片想い中の幼馴染が存在する。
初めてこの気持ちを知ったのは、一体いつだっただろうか。正直なところ、よくわからない。おそらくそのときは、この気持ちを何と呼ぶのか知らなかったのだろう。――だから、僕はこれが『恋心』だと理解したのは最近の出来事だ。
一之瀬渚――才色兼備で容姿端麗。学年の中では“学園一の美少女”と呼ばれている、僕のような“根暗ぼっち”とはまるで月と
僕達の間には昔、仲違いに近い出来事があった。
それからはクラスのトップと最下層。この2つに区分されたカースト制度に則り、お互いクラス内で話すことは無くなった。
だが、この気持ちに偽りはない。誰かを好きになることに……他者の入り知恵は必要ない。
僕はようやく自分の気持ちに気づいた。
そして、言おうと決意した。
僕が1番大切にしたい人で、好きになった相手だから――。
そうした決意を固め、僕はあいつといわゆる『デート』なるものをすることになった。
お出掛けする約束を取り付け、後はこの気持ちを伝えるだけ…………のはずだった。
驚かなかれ。
思春期真っ盛りな男子高校生と云えど、所詮僕は『ぼっち街道』を歩んできた人間。そんな“1人で”を貫いてきた僕が、陽キャ向けな告白が出来るわけがなかったのだ。
……まぁ、簡単に言えばだ。
――どうやって告白したらいいんだ!?
こんな緊急事態に気がついたのは、翌朝――つまり、意識を覚醒させた後だった。
不眠症並みな生活をしたいたために、夜更かしぐらい簡単な日々ではあったのだが、さすがに昨日は寝ることにした。
だが、還ってそれが
……我ながら、どうして僕は“根暗ぼっち”なんかやっているんだろう。と、初めて疑心暗鬼に陥った。
そう考えると、ラブコメ作品の主人公はスゴいものだ。どんな危機的状況に立たされたとしても必ず自分の想いを形や言葉にして伝えている。現実でそんなことが出来る猛者は、果たしているのだろうか? いるものなら会ってみたい。
現実では出来ないところが、正にファンタジーだ。
度胸が欲しい。
初めて自分の中に『欲』が産まれた瞬間だった。
✻
デート本番を迎えた本日、約束の時間の1時間前――僕は急に、友達である藤崎透に呼び出され、渚との約束場所にて透と合流した。
改札前で待っていたらしい透は、合流したばかりの僕の姿を下から上へと視線を動かす。……それも割と真面目な顔をして。
「えっ……何だよ、急に人のことジロジロと見て……」
若干近づいてはいけない雰囲気を感じ取った僕は、徐々に透から距離を取る。
そんな僕の態度に呆れてか、透は「はぁ……」とため息を吐いた。
「……単刀直入に訊こう。お前さ、今から何をしに行くんですか?」
「お前が呼び出したんだろうが」
実のところ、呼び出されたという口実があるだけで、どうして呼び出されたのかは全く検討がつかない。いっそのことサボる、もしくは無視するという名目もあったのだが――『来なかったら協力関係は無かったことにするから!』と、ハキハキとした口調で言われてしまった。
……脅されているようで気分が悪いが、あの話を渚にされるよりはマシだったため、仕方なくここに来たのだが。
「確かにそうだ、だがそうじゃない」
「なぞなぞか?」
「聞けよ人の話を!! この後! お前は“学園一の美少女”と言われ続ける孤高の美少女、一之瀬渚とどこに行くって!?」
「……水族館、だけど」
そう、僕と渚がこれから向かうのは横浜で有名とされる水族館に行く予定でいる。電車を乗り継げば片道2時間ほど。お互いに『読書』という最大の趣味、という名の話題があるため会話の途切れなどは気にしなくてもいい。
だというのに、一体どこを気にする必要があるというのか。
と、そんな心の中を読み取ったように、透は僕のことを指さしこう告げた。
「そんなリア充スポットに乗り込もうとしてるっていうのに、何だその格好は……。お前さ、近所の本屋さんに寄るわけじゃないんだぞ?」
「……? 知ってるけど」
いくら恋に
個人でも気軽に通える本屋に対し、大勢で行くことを目的とする水族館。それぐらいの常識は理解しているつもりだ。
しかし、僕の返答に呆れてか透は再びため息を吐いた。
指摘された僕の格好だが、無地に近いTシャツに黒のパーカー。それから普段から
「はぁ……。ま、少なからずこうなるだろうなっていう予想はついてたけど。こりゃ、想像の斜め上いったなぁ……」
「そ、そんなにか……?」
リア充兼陽キャという渚以上のハイスペックを持つ透にここまで呆れられるとは……。
とはいえ、こいつがこうなる原因が僕にあるというのはわかっている。自分の中での最善の手は打ったつもりだし、これ以上の変更などわからない。だから、僕に反論するような余地は無い。
今まで日陰者の陰キャを務めてきたのだ。とにかく静かに過ごす。それだけが、僕の中にあった唯一の常識だ。
日差しが当たる場所での格好――つまり、デートに相応しい格好などわかるわけがない。
透はぽりぽりと頭を
「……そんなこったろうと思ってたから衝撃はまだ薄い方だ。案外まともだしな。だがこの格好、せっかくのイケメン面が台無しになってるぞ?」
「……? 誰のことだよそれ。お前の惚気話なら昨日散々付き合ってやっただろうが」
「だからあれは参考例だ!! 話を聞け話を!!」
どうしてもあの話が“自分のこと”だと認めたくないご様子だ。そんなに地雷だったのか、あの話。いや、地雷ならそんな話元々しないか。
僕の垂れ下がった前髪を軽く上げ、透は「ふーん」と軽く頷く。
「……よしっ! せっかくだ。オレがお前の服を選んでやる! んで髪は……まぁ軽くまとめれば平気か。そこまで時間ねぇし、とっとと決めるぞ!」
「ちょ────」
有無を言わせない行動力に引っ張られ、僕は透によって近くの服屋へと連行された。
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