第52話「私は友達と、放課後勉強会を開くらしい」

 時は刻一刻と無くなっていき、気づけば放課後。


 今日は晴斗が文芸部の活動日ということも相まって、私は日課にしている勉強会を開いていた。机の上には私持参の勉強道具が広がっており、教室内にはノートにペンを走らせる音が木霊していた。


 文芸部の活動と言っても、活動内容は主に読書。文化祭という時期になると執筆作業もするらしいと以前晴斗に聞いたのだが、正直……晴斗が書く小説。個人的に興味があります。


 とはいえ、それは何かしらの学校行事に限っての活動。


 主は前述にもある通り、読書である。晴斗や私が普段していることと何ら変わりはない。

 だったら部外者である私が行っても、迷惑をかけなきゃ問題ないと思うだろうけど、そこはやはり一線を引かなくてはいけない。


 それに、文芸部に所属しているのは何も晴斗と藤崎君だけじゃない。ちゃんと先輩だっているみたい。晴斗がいつも何気ない感じでいたお陰でいないように感じるだけ。

 それに今日は1週間に1回の『読書会』の日らしく、部員全員で本を読み、そしてそれを共有し合う。一種のコミュニケーションのようなものらしい。


 ……でも、あの晴斗が人と積極的に会話してるとこ、見たことないんですが。

 まぁ……そんな感じなため、私は黙々もくもくと教室で勉強するのみだ。


 ――


 そう、今日は私も1人で何かに没頭する日ではなかった。


「……うぅ~、あ、頭痛い……」


 目の前で頭を抱えてうずくまる彼女。

 そして次の瞬間、蓄積していたであろうエネルギーを一気に放出し、身体ごと机の上に倒れ伏した。


「だ、大丈夫?」


「だいじょばない……。渚ちゃーん! ここの問題教えてー!」


「え、えっと、ちょっと待ってね。……ここの問題はまず、下線が引かれている部分の文から前の文を見つけて――」


 いつもならば私しか残らない教室。進学校と云えど、偏差値はまだまだ中ぐらい。ハイレベルなところとはまた違い、テスト期間になるまでほとんどのみんなは部活に専念する。


 しかし何の部にも所属していない私には、放課後を有効活用する手段が3つしかない。

 読書か、勉強か、それとも晴斗と帰ることか。以上。


 3つ目が潰れた今、私に残された選択肢は2つ。

 勉強以外にも読書っていう選択肢もあったけど、正直それは、晴斗と読むってことに意味があると思ってるから、消去法で勉強が残った。


 だから勉強をすることになったのだけど――私の唯一無二の友達である佐倉さんが「一緒に帰らない?」と誘ってくれた。

 誘われた……んだけど「ごめん、今日は残って勉強したくて」と断りを入れた。


 晴斗からすればそんなことないのかもしれないけど、私にとって下校とは、彼の隣を堂々と歩ける貴重な時間。何のためにクラスメイトとの付き合いを少なくしていると思っているのか。……まぁ全部私のエゴなんだけどね。


 そしたら「じゃあ、私も勉強する!」と言われ、今のこの形に落ち着いている。

 そういえば晴斗以外の同級生と、こうして教室で勉強をするの……初めてだなぁ。


 さすがに1つの机で2人が勉強するにはスペースが足りないため、前後の机をくっ付けてそれぞれで利用している。

 私達のクラスでは、担任の先生に断りを入れさえすれば放課後の居残りとして教室を利用することが出来る。ただし、本来日直の仕事である教室の戸締りをすることが条件なんだけど。


「なるほど~! さっすが渚ちゃん! わからなかったとこ、もう出来ちゃった!」


「私は基本的なことしか教えてないから、佐倉さんの飲み込みが早いからだと思うよ?」


「ううん! 先生よりわかりやすいよ!」


 国語の先生泣いちゃうわよ……。


 でも、彼女は自分で『勉強は苦手』と肩を落としていたし、先程までまったく問題の意図も掴めていなかった。身体測定みたいな感じにならなくてよかったよ……。おそらく、コツさえ掴めれば解けるってタイプなのかな。


 ウチの学校の偏差値は60前後。受験勉強を疎かにしていなければ誰だって入学の可能性がある公立校。おまけに進学・就職率も高いから、信頼性も強い。今年の倍率は去年よりも高かったし。


 わからないことがある……とは言っていたけど、それでも説明すれば理解してくれる。

 きっと佐倉さんも、努力をすれば出来る人だと思った。

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