第二部
第41話「幼馴染は、ラノベに興味があるらしい」
僕――凪宮晴斗には、いわゆる幼馴染というものが存在する。
“根暗ぼっち”という素晴らしき肩書きがある僕とは真逆に、幼馴染には“学園一の美少女”という肩書きがある。
この2つを見比べても、僕達が釣り合わないのは必須だ。
――と、傍から見れば不釣り合いに思われても仕方がない僕達だが、それはあくまで作り出している表面にしかすぎない。
残念なことにその天下無双のトップカーストに君臨している幼馴染には、いわゆる『孤独』という言葉が良く似合っていた。
そしてそんなことは――幼馴染である僕しか知らない。
元々気立てがよく人との関わり合いに長けていた彼女のことだ。クラスに解け込み、かつてのような友達を作ることも造作もないのだろうが……そうさせない要因が、彼女の周囲にはいつも存在していた。
僕達も幼馴染という、名前だけの関係性ではない。
放課後になればあいつは必ず僕の家にやって来るし、話さない日はない。それぐらいには仲がいいのは認める。――けれど、僕達は学校では『他人』だった。
それもまた、同じ理由が関係している。
周囲からの視線――ただでさえ目立つ容姿をしているだけに、彼女の周りには常に人の目があった。僕達が学校で話さないのも、それが理由の1つにある。
立場が違う2人がいるだけで、変な噂も立つほどに、生徒らは暇らしい。
……けど、神経質な面もあった当時の僕達は、噂という存在から逃げていた。それが正解だったか、不正解だったのかなんて……今考えても仕方がないけど。
そんな僕達だけれど、1つだけ共通していることがあった。
前にも言ったとは思うが、それは――趣味の一致だ。
✻
時は
僕は今の生活と変わらず、ぼっち生活を満喫していた。
放課後に他人と寄り道をすることもせず、1人呑気に図書館で時を過ごす。――僕の中での唯一の休憩所でもあった。
寂しいという感情が芽生えたことはない。友達が欲しいと幼馴染のように文句を
本当に……1人でいることが、僕は好きだったのだ。
1人静かな図書室の窓際の席。僕はいつもそこで夕暮れまで本を読んで過ごしていた。
ネットでの感想の共有なんかはしない。
本は1人でも読める。そして、それを誰とも共有せずとも一個人の見解だけ持っていれば十分だと。そう思っていた。
それに訊こう。あいつが天下無双の最上位カースト者だと言うなら、僕はその真逆。そんな人間が、どうやってネットで意見を述べろと? ……無茶を言うな。
――ここ、座ってもいい?
いつも通り、図書室で1人楽しい時間を送っている平和な庶民の元に、今日は珍しくそして面倒なお客さんが訪れた。
偶に読書家っぽい女子から話しかけられることはあるけど、今日は違う。
ため息を吐くと、そっと顔を上げる。そこには、見知った顔があった。
――……何でいる
――逆に訊くけど、誰でも立ち入りが出来るこの図書室に、私が入っちゃいけない理由でもあるの?
――……好きにしろ
――それじゃ、お邪魔するわね
何故隣に座る? そう疑問を浮かべたが、それもまた屁理屈で返されるのだろうと察した僕は、黙って受け入れることにした。
長々と伸びた茶色寄りの黒髪。水晶のように透き通ったアイスブルーの瞳を持った彼女――一之瀬渚は、ウチの学校では一目置く有名人。
そして、僕の幼馴染でもある。
容姿端麗で才色兼備。周りは『女神』だとまで云う彼女だが、僕はそうは思わない。僕から見れば、彼女は僕以上の『孤独』の存在だ。
同情を抱えるつもりは微塵もない。抱えたところで……って話だしな。
それにきっと、そのことはこいつ自身1が番理解していると思う。
だがそれは、周りに対して――という評価だ。
僕と彼女は幼馴染だ。無駄な駆け引きだの無理強いだのは、まったく必要ない。
何より僕も、こいつと居る時間に……嫌な思いを抱えたことは、1度たりともないし。
机に頬杖をついたまま、僕は読書を再開しようとする。
この体勢の方が、僕には1番しっくりくる。
すると、そんな代わり映えのしない僕を“じーっと”見つける視線が1つ。言わずもがな、隣に座る一之瀬からだった。
――……何だ
――……面白いの、それ?
と、それと示すものに目を配る一之瀬。
――……人によるんじゃないか? 僕は好きだけど
――……そっか
僕の答えに少々疑問が残る返しをした後、一之瀬は持参したであろう小説を読み始めた。
……え、なに? 今の何の質問だったんだ?
けど、少し意外だ。一之瀬は、本自体は僕と同じぐらい好きだし、今も楽しそうに本を読んでいるけれど、僕とは異なるレーベルを読む。
ライトノベルを読む僕と、一般書籍を読む一之瀬。
しかしお互いに、深く聞くことはせずにただ一個人の趣味として楽しんできていたのに……もしかして、本当に興味を持ったのだろうか?
暫くの間、それからお互いに会話は無かった。
ひと時の好奇心……というやつだったのかもしれない。
けれどそのとき、初めて『共感』という言葉の意味を捉えたのもまた事実だった。
結局あれ以来、聞いてくることはなかったし、意味深なことはなかったのだろう。
……そう、高を括っていたのだ。
まさかあの一般小説一筋だった幼馴染が、僕と同じライトノベルに手を伸ばすなんて……一体誰が想像出来ただろうか?
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