第24話「幼馴染の妹に、私達はプレゼントを渡す」

「「ハッピーバースデー!!」」


 その夜――私は宣言通りにハル君の家へとお邪魔し、一緒に優衣ちゃんの誕生日を祝うことにした。


 帰宅し、準備をしてから優衣ちゃんをリビングに呼び、私とハル君は同時にクラッカーを鳴らす。狭いリビング内に響くクラッカーの強烈な音と紙吹雪、更に少し火薬の匂いが混じり合う。

 私はともかく、ハル君は少し後悔したような顔をしてたけど、まぁいっか。


 それよりも問題なのは優衣ちゃんの反応の方。

 リビングに入ってきてからというもの、優衣ちゃんはその場で立ち尽くし呆然としていた。さすがにここまでのことは予想してなかったのか、少し気の抜けた顔をしてるし――というかこれ、まさかとは思うけど、自分の誕生日忘れてたとか……そういうオチじゃないよね? だって、しっかりケーキの確認とかしたはずだし……!


「……っは!! そっか。今日私の誕生日か……」


 やっぱりハル君の妹だ……。

 この兄妹、どこまでも似すぎてて怖さを感じる。


「さっきメッセージ送っただろ。ケーキ何がいいって」


「いや~、普通にデザート気分で買ってくるのかと思ってたからさ~。そっかぁ。だったらちゃんと注文付けとけばよかったなぁ……」


「今頃後悔すんなって。見苦しいから」


「それ実の妹に言う台詞かなぁ?」


「実の妹だから言えるんだろ」


 そういうもんなんだろうか。きっと優衣ちゃんもそう思っているに違いない。


「優衣ちゃん。はい! これ、私から。お誕生日おめでとう!」


 私は机の上に置いてあったプレゼントの包みを手に取り、それを差し出した。

 完全に独断で決めちゃったプレゼントだし、余計なお世話……にはならないか。ハル君と違って、この子は性格歪んでないもんね。……時々、腹黒い一面はあるけど。


「あ、ありがとうございます! 開けてもいいですか?」


「どうぞ!」


「……これ、ピアス?」


「高校生にもなる前からは早いかなぁーとは思うんだけど、それ穴開ける必要がないやつだから、それだったら日常使い出来るかな? と思ってね」


「で、でもこれ、高かったんじゃ……」


「そんなでもないよ。一般的なアクセサリーショップで買ったやつだから。それに、今日は高校生に向けての第1歩だからね。遠慮しないで!」


「あ、ありがとうございます! 大切にしますね!」


 にこっと、まるで天使が微笑んだかのような表情で笑顔を見せる優衣ちゃん。

 血筋なんだし、ハル君も笑えば天使のような笑みを浮かべられるんだろうけど……おがむには、まだまだ掛かりそうかな。本人がこれだから。


「それと――ハル君から」


「えっ……晴兄からもあるの?」


「……何だその目は」


 私からのプレゼントを貰うときとは格別に違う、兄に対してのこの信用の無さよ。

 まぁ、去年が去年なだけに、信用性が失われてしまっていても何も言えないけど……。

 優衣ちゃんは「いやいやいや」と手を真横に大きく振りながら言った。


「だって、去年貰ったプレゼントとか活用的すぎて思わず叫んだもん。絶対また活用的しかないものでしょ……」


「実の兄に言う台詞か、それ」


「実の兄だから言えるのよ!」


 ……何だかこのやり取り、スゴいデジャヴ感があるなぁー。

 やっぱり本質は兄妹だと改めて実感した。


「……安心しろ。人間は学ぶ生き物だ、同じ失敗を繰り返さないために日々努力し、実践する人間だっている」


「何の話よ……」


「……とにかく、とりあえず受け取れ」


「なに、これ?」


 ハル君が優衣ちゃんに渡したのは、リボンで包装された小さな紙袋だった。


「いいから、開けてみろ」


 ハル君に促された優衣ちゃんは、少し困惑しながらも紙袋を開封した。

 その中身は――鈴のついた小さなキーホルダーだった。


 去年のようなものだと期待していなかった優衣ちゃんにとっては意外な中身だったらしく、腰を抜かしていた。この兄妹、本当に見てて飽きないなぁ。


「キーホルダー……しかもこれ、勉学の祈願譲受のやつじゃん」


「その……今どきの女子中学生が欲しそうなものとか、僕にはわからなかったから。去年のこともあるし、まともなものを試行錯誤してたら、祈願譲受ならいいかと思って……」


 そう――帰る間際に『寄りたいところがある』とハル君に言われて行ったところ。それが小物系を売っていたお店で、そのキーホルダーはそこで購入したもの。

 ……何か、才色兼備なハル君らしいと思ったのは内緒。


 そんな私とは裏腹に、去年との格差が激しかったのか、優衣ちゃんは数秒間停止した。


 気持ちはわかるよ。私も、ハル君がキーホルダーを買いに小物屋に入ったときなんか――『な、何を買う気なんだろう……』って心配になったし。だってそうじゃない? あの1時間、まともな案が出てこなかったくせに帰り際になった途端にあれだよ? ……さすがに、少し心配したよね。


 そして、時が止まった優衣ちゃんは動き出した。


「……へ、へぇ~。本当に意外なものが出てきたね。今年はシャーペンかと思ってたよ」


 それは、心の片隅に置いていた私にも同感だった。


「んなに信用ないか。だったら明日、ご所望通りに買ってくるが?」


「い、いい! 要らないから!」


 いつもであればハル君を扱き使う優衣ちゃんだけど。今は、元の兄妹関係が戻ってる気がする。でも本来であれば、この図が当たり前なんだけど。

 すると、改めて貰ったキーホルダーに視線を落とし、口元を緩めた。


「……ありがとう、お兄ちゃん!」


「……誕生日、おめでとう。優衣」


 ――羨ましいと思う。

 こうやって、兄妹関係にある異性ならば、普通に会話出来て、不自然なく名前を言い合えるのだから。


 決意はしたつもりだったけど……やっぱり、少し寂しいかな――。


「さっ! 早くご飯食べよ! ケーキ、ハル君が選んだんだから!」


「えっ、晴兄が選んだの? ……おかしいよ。晴兄、やっぱどっか頭打ったんじゃないの? 病院に行った方がいいよ!」


「実の兄に言う台詞か、それ」

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