キング・オブ・ポップスの話

 昨日は夜更かしして本読んでたんですよ。今日はお休みなんで、朝寝坊する気まんまんで。そしたら朝、巨乳にたたき起こされまして。彼女はシフト勤務なんで今日は仕事らしいんです。


「ちょっと、駅まで送って行って」


 はあ? 時計を見るとまだ六時半じゃないですか。まじかよ。俺の朝寝坊タイムを返せー、と思いましたけど、それを口に出すとブチ切れられて悲惨な目に合うことは経験上間違いありません。そこそこ長い夫婦生活の上に確立した、厳格な身分制度に逆らうことはできないのです。

「お願いします」とか、せめて「悪いけど」とか付けられねーのかよ、とも思いますが、休日の朝寝坊タイムの夫の身分なんて下も下、対して休日に朝出で働く妻は神様の次に偉いんです。それが我が家のヒエラルキー、耐える以外の選択肢は俺にはなかったのです。


 まあ、そんなこんなで不本意ながら早起きして駅まで巨乳を送って行って戻ってきた俺ですが、今から二度寝するのもなんだかなー、と小説を書くことにしました。カクコン用新作、現在三万字です。序盤のヤマ場に差し掛かったところの重要なシーンなんですよね。


 80年代ポップスをBGMにコツコツと字数を重ねて行きましたよ。こういう部分はまず書ききることが大切。物語の柱を固めてしまうのです。細かい調整は後でいくらでもできますが、どうしようどうしようと悩んで字にしないのが一番ダメですよね。誤字も心情の調整も描写もあと回し。とにかく話を先に進めることにエネルギーを注ぎました。稼いだ字数は二時間で四千字ぐらいでしょうかね。懐メロっぽいポップスのBGMと相性が良かったらしく、結構快調に筆が走っていました。


 その途中、カーペンターズのシングが終わった時、次のBGMが始まるタイミングでスピーカーから聞こえてきたのは、ギシギシとドアが開く音。「ヒュゥゥゥ」と吹き抜ける風の音が続き、そしてカツカツと足音がして、狼の遠吠え。


 お、これは、もしかして。


 早押しクイズならもうこの段階で押せましたよ。


 ジャンジャーン、ジャン、ジャン、ジャン

 ドドドドドット、ドドドドドット、ドドドドドット


 キターーーーーー!と思いましたよ。テンション爆上がり。そうマイケルジャクソンの「スリラー」でした。

 https://www.youtube.com/watch?v=hjciZ3K4DS0


 もう小説そっちのけですよね。いやあ、しかしそれほど俺、昔マイケルジャクソン好きというほどではなかったんですけどね。とにかくこの一気にテンション上がる感覚、やっぱりキングオブポップスは伊達じゃないです。これ俺と同世代の人には分かってもらえる感覚なんじゃないでしょうか。別格ですね。マイケルジャクソン。


 その後も三十分に一回ぐらいマイケルジャクソンの曲が挟まりましたが、ビートイットの鐘の音でも、バッドのシンセベースでもイントロ聞いただけで「キターーーーー!」とテンション上がりまくりました。さすがマイケルです。


 まあ、そんな感じで昼飯もそっちのけで小説書きつつたまにかかるマイケルの曲で血圧上げること数時間、午後三時ぐらいにメールが来たんですよ。


「今日は上がっていいって言われたから迎えに来て。〇〇駅(自宅からちょっと遠い繁華街の駅)までね」


 へいへい。


 〇〇駅は駅前が車で入りにくいからいやだとか、せっかく小説書くのとマイケルでノリノリなのにとか、せめてお願いしますとか言えねーのか、とか、言いたいことは標高三千メートルの御嶽山ほどありますが、ここは「御意」とばかりに黙って作り笑顔で迎えに行くのが我が家の血の掟なんです。


 まあ、そんな休日の一日でした。


 あ、そう言えば駅の駐車場で車を止めて駅ビルに入ったのですが、そこの店先にあったマネキンはことごとく乳先でした。どうやら乳先の方が正しいスタイルっぽいですね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る