第9話

「なぁ、お前いつまでそんな風にしてるつもりだ?」


野原に一人の少年の声が響いた。大きい訳ではない。唯、周りにひとつを除いて何も無いだけだ。

そのひとつは少年の背後から着いてきていた。

そして、そのひとつの、いや一人の少女が喋った。


「私はあなたについて行きたいの。」


少年は、呆れたような、嬉しそうないくつかの感情が入り交じった顔をしながら、言う。


「いや、着いてくるのは別にいい。文句もないし、むしろ、ありがたい。けど、けどな?










なんでさっきから、野原野原野原、街の影ひとつ見えてこないわ、生き物の影ひとつ見えねぇ!さっさとその幻術解け!」





そう、さっきから何も無い野原を、なんの生物を見ることもなく、歩き続けていたのは彼女の幻術が原因だった。


「、、、、、、、嫌っ!」


少女は俯きながら拒否した。


「「、、、、、、、嫌っ!」じゃねぇ!何度その拒否に付き合ったと思ってる!?もう、十年だぞ!?いい加減座りたいし、何かを食べたいんだよ!?しかも、幻術解いたように見せて何重にも精神誘導を仕掛けてくるんじゃねぇよ!つか、俺ですら誘導されそうってどんな技術だよ!?」


少年は心の底から叫んでいた。


そう、2人は出会い次の町へ行くと決めて歩いていた。

少年は近くに町はない、けど1ヶ月もあれば着くだろうと予想していた。

3ヶ月が経った。まだつかないのか?と疑問に思った。

半年が過ぎた。いい加減何かあると分かった。

1年目。少女が幻術を使っていたので解くように言った。

5年目。そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。けど、うるうるとした目で上目遣いで懇願されたのでつい、許した。

8年目。少女が幻術を解いたのを確認した。が、ずっと歩き続けている。何者かの罠か?と思い周囲に生物崩壊魔法を放ってみる。なんの反応もない。

10年目。ようやく、気づいた。


「だって、人にあったら、捨て、られるかもしれないもん!」


少女は泣きそうになりながら、言った。


少女も初めは1ヶ月程度いればいいかな?と思っていた。けど少年は優しすぎた。


少女は、もし街に自分と同じような者がいたらそちらを取るのではないか?捨てられるのでは?


といった疑問がいくつも湧いてきた。


少年と離れたくない。私は別れたくない。捨てられたくない。


その想いが、世界最強の少年すら騙される程の幻術の技術を生み出していた。


捨てられたくない、すてられたくないステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタクナイステラレタ 「捨てねぇよ。」


思考の渦に呑まれそうになっていた少女に少年の優しく暖かい声が聞こえた。


「、、、、、、、ほん、と?」


「あぁ、ホントだ。ひとつ言う。俺はお前が可哀想だからでもお前が不憫だから助けたわけじゃねぇ。俺が気に入った。その生き様が、その在り方が。だから、助けた。他の誰でもねぇ、お前だから助けたんだよ。」


「、、、、、、、ん。分かっ、た。もう、ほんとにしない。」


少女が指をパチンっと鳴らすと空間が歪み、まるで最初から無かったかのように、さっきまでいた野原が消え去っていた。


そして、2人は歩いていく。










◇◇◇◇◇◇



「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

ヨウヤク、ヨウヤクダ!アノ日ノ約束今果タソウゾ!




?????よ!待ッテイロ。我ハ遂二至ッタゾ!」


暗く、生命の伊吹が全く感じられない空間。

そんな空間で嗤う一つの魔がいた。


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