ジョン・牧紫栗、脇が甘い
ゆえに肥土達は、それこそクグリ当人を相手にしているかの如く慎重に確実に任務を果たす。
「……」
一切、声は発することなくハンドサインのみで指示を与え、アジトを包囲した。その姿はもう誰が誰か、よく見知った人間でさえ察しがつかないだろう。体形もシルエットも正確には掴めないようにされた特殊な服を身に着けているからだ。
かろうじて身長に大きな差があればそれくらいは区別がつくだろうが、実はそういう部分も似通った者で班を作るのが基本なので、あとは身のこなしの癖でも知っていればもしかしたらというのもありつつも、それすら自身の<癖>を消す訓練を受けており、経験を積むほどに判然としなくなっていく。
その点、肥土の部隊はもう誰が誰だかまったく分からなくなっているがゆえに、練度の高さが分かる。それでいて、肥土達自身はどこに誰が位置するかを完全に把握しており、たとえ予定と違ってしまっても、その位置についた者が<その位置についた者の役目>を果たすため、万が一入れ替わってしまっても問題ない。
彼らが包囲した家は、この地域ではまったくもって何の変哲もない平屋の一軒家であった。そこそこ広い庭があり、ガレージがあり、大きな窓がある白い家。それを何人もの人間で取り囲み、音響と赤外線で中にいる人間の位置を確認する。
これについては、先に配置についていた部隊が確認済みだった。もう一時間前からほとんど動いていない。一度、トイレに立ったことがあった以外はずっと、傍受した通信の内容をニヤニヤと眺めていただけだった。
一応、センサー類は仕掛けられていたものの、すでに欺瞞工作も終えている。擬装された情報をただ送っているだけだ。ジョン・
さりとて、肥土達は油断しない。時には『素人を装い油断を誘う』曲者もいるからだ。けれど今回はそこまでじゃなかった。本当に素人でしかなかった。着々と準備が進む。家の壁に、弁当箱くらいの大きさの何らかの装置が四方に付けられていく。そして、
「!?」
家の外壁に仕掛けられた装置が作動した瞬間、ジョン・
「FREEEZE!!」
決して大声ではないがしっかりと耳に届く硬い声が浴びせられ、いくつもの銃口が彼に突き付けられると共に、脊椎に設けられた電脳端子に何らかの装置が押しあてられたのだった。
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