ジョン・牧紫栗、机の上の毛虫

こうしてジョン・牧紫栗まきしぐりに対する包囲網は着々と狭まっていた。なのに、当の牧紫栗自身は、


「……」


JAPAN-2ジャパンセカンド社とアルビオン社に仕掛けた<バックドア>から得られる情報により、両社が右往左往している様子を見てニヤニヤと粘っこい笑みを浮かべていた。


それが、自分を油断させるための擬装であるとも知らずに。


そうだ。JAPAN-2ジャパンセカンドとアルビオン社だけじゃない。彼は、電脳スキルを活かして様々なところで犯罪を犯していた。その多くは、他者の電子マネーを掠め取るようなそれこそコソ泥のような陳腐な犯行でしかなかったが、電脳スキルのおかげもあってかそれが発覚することはなく、これまで上手くいってしまった。


エリナ・バーンズの一件では本当に稚拙なそれであったことですぐに足がついてしまったものの、闇医者をはしごして顔を変え電脳化処置を受け電脳スキルを手に入れてからは、やることなすこと上手くいった。それによって自分が<スーパーハッカー>になれたのだと感じた。加えて、元々、多少は技術もあったことにより<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>の計画にも関与し、しかしそれが破綻し始めたことをクラッキングによって得た情報で察し、自身に捜査の手が伸びる前に逐電、難を逃れたのである。


これらの歪な<成功体験>が彼を一層、勘違いさせてしまったのだろう。そうして今回、アルビオン社にクラッキングを仕掛け、自身を評価しなかったJAPAN-2ジャパンセカンド社に意趣返しをすることを決意させてしまった。


けれど、いかに電脳スキルを手に入れたとて、彼は所詮、<素人>であり<小悪党>でしかなかった。本気になった各諜報部の前では、平らな机の上に置かれた毛虫に等しい存在だった。毒を持つ毛をまとって身を守ろうとしてもそんなものは何の役にも立たず、どこへ動こうともすべて丸見えであり、準備が整うまでただ泳がされていたに過ぎなかった。


そして、今も都市としてのJAPAN-2ジャパンセカンドに籍を置いていることから、JAPAN-2ジャパンセカンドの戦術自衛軍に、<テロ容疑者確保>の要請があり、


「それじゃ、出発するか」


この時、一番準備が整っていた肥土ひど亮司りょうじの部隊に命令が下された。


実はこの裏では、アルビオンやニューオクラホマ市も煮え湯を飲まされたこともあって自分達で動こうとしていた。いや、『処分したかった』という思惑はあったものの、牧紫栗の籍がJAPAN-2ジャパンセカンドに残されていたことで、優先順位があったということである。


「俺達の任務は、目標を確保すること。いいな。殺すな。お前達なら、自分や仲間を危険に曝すことなくそれが可能だと俺は信じる。各員、心してかかれ!」


「はい!」


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