肥土亮司ら、シュヴィーツ・フォン・マーズに降り立つ

民間の輸送機に擬装されたC-F1空挺機に乗り込んだ肥土ひど亮司りょうじ二等陸尉とその部下達は、


「よし、行くか!」


彼の掛け声に、


「はい!」


と明瞭に応え、JAPAN-2ジャパンセカンドの郊外にある戦術自衛軍の基地でもある民間空港から飛び立っていった。


なお、この空港は、表向きは民間のそれではあるものの実際には地球に本部を持つ戦術自衛軍が所有するもので、あくまで平時は民間に貸し出されているだけのものでしかない。なので当然、戦術自衛軍の機体の離着陸が最優先され、民間機は待機を命じられることもある。ただ今回は、民間機のフライトの合間を縫ってのそれであったことで、本当に民間用の輸送機が離陸していったようにしか見えなかった。


そうして、一路、シュヴィーツ・フォン・マーズの空港へと向かう。


また、C-F1は<エアボーン>と呼ばれる種類の作戦に用いられることが主な役目の機体だが、今回はあくまで肥土達の輸送が任務であって、エアボーンは行われない。


ちなみにエアボーンとは、<クイーン・オブ・マーズ号事件>の時のように肥土らがクイーン・オブ・マーズ号にC-F1からパラシュートで降下したようなそれを言う。とは言え今回の任務ではそこまでのことは必要ないというわけだ。普通に空港に降り立ってそこから肥土達は、これまた民間の宅配業者のそれに擬装されたトラックで移動。ジョン・牧紫栗まきしぐりのアジトを急襲し生きたまま確保するのが作戦内容である。


シュヴィーツ・フォン・マーズの空港に着陸し、荷物のコンテナに偽装したシェルに乗り込んだ肥土達はそのままトラックに積み込まれ、空港を後にする。その中で、岩丸いわまる英資えいしが、


「あ~……シュヴィーツ・フォン・マーズのメイトギアちゃん達に会いたかったなあ……」


と泣き言を漏らす。


「あのなあ……」


肥土が呆れ、


「不謹慎ですよ」


月城つきしろ香澄かすみが叱責する。とは言え、他の隊員達も、さすがに岩丸ほどではないにせよ、極度に緊張している様子はなかった。もちろん緊張感は持ちつつも、表情は比較的穏やかだ。そこまで難易度も危険度も高くはない作戦だからだろう。とは言え、気を抜くわけにはいかない。油断をしていれば思わぬことで足を掬われる場合もある。こういう時はそれが一番恐ろしいのだ。


だからこそ気を抜かない。岩丸も、ふざけているように見えてあくまでリラックスしているだけで、本当にふざけているわけでもなかった。彼なりの平常心の保ち方なのだとも言えるだろうか。


そしてトラックは、牧紫栗のアジトとして特定された郊外のアパート近くに到着したのだった。


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