エリナ・バーンズ、宗近2122-HHSに問い掛ける
「
普段は口にしない<個体識別名>で自分を呼んだことでエリナが精神的にやや弱っていることを
「エリナはとても頑張っています。私は誰よりもエリナの頑張りを傍で見てきました。<幸せの形>というものはとてもたくさんあって、自身の役目を懸命に果たそうとしているエリナは十分に幸せだと私は認識しています。
ですが、エリナ自身が今のご自身を『幸せでない』と感じるのでしたら、それはいかなる理由によるものか、私も一緒に検証していきます。どうか、一人で悩まないでください」
宗近は、いや、<京一>は、テーブルでエリナの前に座って、穏やかにそう語り掛けた。心理面からも人間をサポートするために存在するメイトギアとしては当然の姿だった。
そんな京一に対して、エリナは、
「うん。ありがとう。あなたかいてくれるから私も頑張れる」
とは応えたものの、
『正直、私が欲しい言葉はそれじゃないんだよね……』
とも思ってしまう。はっきり言って並の人間よりもメイトギアの方がよっぽど対面した人間の心理を的確に言い当てるものの、人間は目の前の状況を自分が見たいように勝手に解釈を加えて認識することがあるのに対してメイトギアをはじめとしたロボットにはそのような齟齬はないものの、それでも完璧とは限らない。
また、メイトギアは人間を傷付けることがないように言葉を選ぶため、たとえ相手がショックを受けるのが分かっていても敢えて最も的確な言葉を選ぶというのが実はできなかったりもする。今回、エリナにはそれが不満だったようだ。
『そうですね。今のあなたは幸せそうには見えない』
と、はっきり言ってほしかったのだ。自分が幸せじゃないから<幸せな花嫁>というものが理解できないのだと、ずばりと指摘してほしかったのだ。
が、それをメイトギアに期待するのも酷な話だっただろう。他者を慮る気のない人間よりは気遣ってくれるとはいえ、ロボットには<心>がない。人間の心理状態そのものを数値化した状態でしか理解できない。だから、
『自分の気持ちと比べて相手の気持ちを測る』
ということができないのだ。決して<共感>はしてくれないのである。
今、エリナが欲していたのは、<共感>であったのだろう。
『ここが、ロボットの限界か……』
そう思うのと同時に、ネットなどで暴言を垂れ流す人間の心理が少し理解できるような気がした。そういう者達が欲しているのは<共感>であって<正論>ではないのだと。
『人間って、ほんっとメンドクサイ……』
そんなことも思ってしまったのだった。
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