受刑者、生涯をかけて己の罪と向き合わされる

なお、


『刑務所の中で改心させられるほどの人格矯正プログラムがあるなら、外の社会でもすればいいじゃないか!』


と疑問を抱く者もいるだろうが、実はそれは一般社会でもごく普通に行われていることである。


しかし、人間というものは、自分が信じ込んでいたことを覆されそうになると大変な苦痛を覚え、それから逃れようとする傾向が非常に強いのだ。だから、自身の反社会性を改めるためにプログラムを受けた者の多くが、途中で断念して来なくなるのだという。実刑を受けて刑務所に収監されるほどの罪を犯していない段階では、執行猶予や保護観察の期間が過ぎれば行動を制限することができないがゆえに。


その点、刑務所の中では逃げることはできないため、時間をかけてでもそれが実行されるというのは確かにある。


何という皮肉。終身刑を言い渡されるほどの大きな罪を犯して収監されて、自身がそれまで信じてきたことが覆されそうになっても逃げられないからこそ己と向き合えるようになり、自らが行ったことの意味を理解できるようになるとか。


そのため、罪の意識に耐えられなくなり刑務所内で自殺を図ろうとする受刑者もいるものの、AIにより常時監視されていることと進歩した医学のおかげで、自殺に成功した例はほんのわずかしかないという。


己の罪と向き合うことが求められるのだ。AIとロボットに生かされて、その生涯をかけて。死ぬことさえ許されず。


さらには、精神を病みそうになっても丁寧に回復させられ、終わることなく悔恨の日々を送らされる。


ある受刑者はこう言ったそうだ。


「<無間地獄>とは、こういうことを言うのかもしれない……」


と。その受刑者は特に、三十になったばかりで殺人を犯し終身刑を言い渡されたため、老化抑制処置の効果が切れるまでだけでも約九十年。それからさらに平均三十年の時間を生きることになるとされているので、ざっと百二十年は自身の罪と向き合い続けなければならないわけだ。


中には、その人格矯正プログラムを受けてなお自身の罪の重さを理解しない者もいくらかはいるものの、それはもはや<例外>と呼べる程度の割合なのだとも言われている。


たとえロボットであっても延々と自身に向き合ってくれる者がいると、人間はその影響を受けずにはいられない。


悪に染まっていくのとは逆の過程をたどるのだから。


それを知っているからこそ、千堂アリシアは悲しくて悔しかった。タラントゥリバヤが、首を吊った母親を目撃し、パニックを起こしたまま父親を包丁で刺してしまった時点で適切な対処が行われていればと、思ってしまうのだ……


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