千堂アリシア、社交辞令で応じる

まさかの再会に、千堂アリシアは自分が一気に和むのを感じた。しかしそこに、


「いや、君のおかげで助かった! ありがとう!」


ニューオクラホマの司法長官が握手を求めてくる。


「いえ、それがロボットの役目ですので」


アリシアは<社交辞令>でそう応えつつ、握手に応じる。そこにさらに、


「アリシア!」


『その場で待機』の指示が解除されたことで階段を使って降りてきた千堂京一せんどうけいいちが駆け付ける。


「千堂様!」


彼女の表情がぱあっと明るくなって、明らかに様子が変わる。誰の目にも明白なほどに。


そんな光景にニューオクラホマの司法長官は目を見開いて、


「あなたが彼女のオーナーですか? ありがとうございます。彼女のおかげで助かりました」


改めて千堂にも握手を求めてきた。千堂もそれにしっかりと応えつつ。


「こちらこそ、お役に立てて光栄です。私は千堂京一。JAPAN-2ジャパンセカンドで役員をしております」


自己紹介すると、


「おお! 道理でどこかでお見かけした顔だと思いました! 何度かレセプション会場などでお見かけしております。これまで直接ご挨拶をする機会はありませんでしたが!」


さらに興奮したように言った。


なお、この時、テロを行おうとした容疑者はすでにホテルの外へと連れ出され、ホテルの業務用車両に隔離されて警察の到着を待っているところだった。


ニューオクラホマの司法長官については千堂に任せることにしたアリシアは改めて田上たのうえかほりの方に向き直り、


「ご旅行ですか? とんだ事件に巻き込まれてしまいましたね」


改めてかほりとその父親を気遣う。それに対して父親の方が、


「いやはや、驚かされました。確かに私と妻の思い出の場所をこの子と巡ろうとしてたんですが、まさかこんなことになるとは」


事情を説明する。


「そうでしたか。それは災難でした。でも、お怪我がなくてよかったです」


するとかほりも、


「うん。あなたのおかげで助かった。ありがとう」


改めて礼を口にする。それができるのだから、本質的にはわきまえた子であることが分かる。


父親の言うとおり、少々、口の悪いところもあるようだが。


それを受けて父親も改めて、


「この子の母親である私の妻は、工事現場での事故で亡くなりました。でもだからこそ母親がどこで何を見たのか、この子にも知っておいてほしかったんです」


そう口にすると、


「工事現場で亡くなった田上さんって、田上レイカさんのことですか?」


アリシアが、データにヒットした名を上げる。


「ええそうです。田上レイカは私の妻で、この子の母親です」


この時代、『人間が工事現場の事故で亡くなる』ということ自体が極めて珍しい事例となっており、すぐさま照合できてしまったのだった。


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