千堂アリシア、再会する

千堂アリシアは、テロリストが制圧されたことを確認した上で、再度周囲の確認を行った。怪我人などが出ていないかを確かめるためだ。すると彼女の視線が止まる。


『あの子は……』


そこにいたのは、おかっぱ頭にやや吊り目がち、赤いワンピースをまとった、知っている者が見れば大昔に人気だったという<妖怪アニメ>のキャラクターの一人を連想させる少女だった。


『確か、田上たのうえかほりさん。桜井コデットさんと宿角すくすみ結愛ゆなさんのお友達の』


さすがにロボットであるアリシアの人物認証は非常に高精度で、誤認する可能性は三十億分の一以下だとされている。


加えて、初見で誤認したとしても、常時情報を更新していくことで何度も再確認するため、数秒で誤認の確率をほぼゼロにすることもできた。その彼女がそう認識したのだから、そこにいたのは間違いなく<田上かほり>だった。一年数ヶ月ぶりの再会なので明らかに成長しているものの、間違いない。


そのかほりと一緒にいたのは、顔のパーツの相似性から父親であろうことがすぐに推測できた。DNAなど調べるまでもなくよく似ているのだ。かほりはいかにも少女らしい顔立ちをしているのに対して、父親らしき男性については各パーツは確かに似ているものの明らかに男性の顔立ちをしているという違いはあれど、確度としては九十パーセント以上と出ている。


「かおりさん、お久しぶりです。お怪我はありませんか?」


アリシアはかほりに歩み寄りつつ声を掛ける。するとかほりも、


「あんたは……ひょっとして探偵ロボット……?」


外見上はよく見る<アリシア2234-HHC>でありつつ表情を含めた雰囲気でピンと来たらしい。


かほりの発言に、父親らしき男性も、


「え? じゃあ、彼女が前に言ってた……」


呟いた。そう。二人は間違いなく父娘で、かつて桜井コデットが<猫のナニーニ>を探していた時に出逢った田上かほりとその父親だったのである。


「まさかこんなところでまた会うなんて、奇遇ね。あなたの方こそ元気だった? って、ロボットにそう訊くのも変か」


さきほどは『あんた』とつい口にしてしまったのを次は『あなた』と言い換えたのは、さすがに父親の前だったからだろう。ロボットは『あんた』と呼ばれようと『あなた』と呼ばれようと気にはしないものの、親としてはやはり我が子の口ぶりは気にするであろうし。


実際、父親も、


「すいません。口が悪い子で。でも、そうですか。あなたが千堂アリシアさん。その節は娘がお世話になりました」


ロボット相手でありながら娘の非礼を詫びつつ丁寧に頭を下げたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る