タラントゥリバヤについて、その調査結果

そうしてタラントゥリバヤについて調査を行ったものの、結局は断片的なものしか得られなかった。その一方で、彼女がここで確かに生きていたことだけは確認できた。


彼女の生家の周辺では、きっと、幼い彼女が近所の子供達と遊んでいたりもしたのだろう。その光景を思えば微笑ましくもある。


けれど、当時の彼女の同級生にも何人か話を聞こうとしたものの、誰一人、語ってはくれなかった。彼女の名前を出しただけで、


「帰ってくれ。テロリストについて話すことなど何もない!」


と、まるで台本でもあるかのように同じ文言で拒絶された。確かに語りたくもない内容ではあるだろうが、それ以上にこの地域の隠蔽体質は非常に根強いものであることも感じられた。


千堂アリシアは、そのことについては批判するつもりもない。彼女にとってはそれは問題ではない。人間にはそれぞれ価値観や考え方があり、すべての人間が同じ思考をするわけでないのはよく分かっている。


けれど、なぜか彼女を責める方向にだけは示し合わせたかのように歩調を合わせるのが不思議でもある。テロリストであることは事実でも、そうなる以前の彼女はごく普通の子供であったはずなのに。なぜか、


<生まれついてのテロリスト>


のような扱いをするのだ。宿角すくすみレティシア以外は。


アリシアはそれが悲しかった。彼女が生まれてきたことそのものが否定されているような気がして……


無論、タラントゥリバヤがしたテロ行為そのものは許されるものじゃない。許されていいものじゃない。ただ、許されないのは<テロ行為>であって、彼女の存在そのものではないとも思う。


だからアリシアは思うのだ。


『私だけは、彼女の存在を許したい……』


と。他の誰が許さなくても、自分だけは彼女の存在を認め、その上でやったことについては批判もしたいと考える。


タラントゥリバヤは、<クイーン・オブ・マーズ号事件>においては、直接、乗客を殺害していないことは分かっている。彼女はただひたすらメイトギアを破壊していただけだ。けれど同時に、


<ロボットと結婚した友人の殺害>


については、後の捜査で物証も出てきたとのことで事実とみられている。父親を包丁で刺した件とも合わせ、決して<無辜の者>ではない。ないが、彼女が生きていたという事実そのものをなかったことにする必要まではないのではないか?


彼女の一番の<罪>は、


『不幸な身の上を理由に他者を傷付けていい』


と考えてしまったことなのだろう、それさえなければ、まだ幸せを掴めた可能性はあったのかもしれない。考えが合わない友人とは縁を切って、まったく別の生き方をしていれば……


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