カルクラ、報復の権利
カルクラでの生活は、アリシアにとっては少なからずストレスを感じるものであった。彼女が遵守するべきとされている火星の法律など知ったことかとばかりに自分達の考えるルールを適用し、他者を傷付けることどころか命を奪うことすら軽く考え、些細なことで拳銃やナイフを持ち出して相手を傷付ける。
しかも、<報復>を重視し、『やられたらやり返すのが義務』とばかりに、加害者に対して過剰な報復も行う。
つい先日も、こんなことがあった。
クラヒの店からもほど近いところに住んでいた若い男が、些細なことで口論となり、激高。先に拳銃を抜いて相手を射殺しようとして、しかし銃弾が不発だったことで遅れて拳銃を抜いた相手に反撃されて射殺されるという事件が起こった。
これ自体はよくあることなのだが、しかし事件はこれだけでは終わらず、射殺された若い男の両親は相手に報復を誓い、家族総出で加害者の自宅を襲撃、一家全員を射殺したという。もちろん相手も反撃したことで襲撃した側にも犠牲者が新たに出て、これで結局、双方合わせて三歳の子供を含む六人が死亡したとのことだった。
それだけじゃない。今回の事件には何の関係もない隣人の家にまで襲撃側の銃弾が飛び込み、高齢女性が一人亡くなっている。
<報復のとばっちり>
でも犠牲者が出たのだ。すると当然、高齢女性の家族は、その原因を作った襲撃者に対して報復を望んだが、これ以上の報復の連鎖を危惧した町の実力者達が協議し、襲撃者側が遺族に対して見舞金を支払うことで収めるように働きかけたのだという。
というのも、襲撃者側が町の実力者の一人の遠縁の親戚だったことで、
『報復は当然の権利』
と考えるこの地域独自のルールを捻じ曲げてしまったのである。
そう。どれほど『報復は当然の権利』などと考えていても、所詮は権力者の都合でどうとでもなるのだ。報復は結局新しい報復を呼び、どこかでそれを押し止めなければならなくなり、そして権力者の都合で線引きが勝手に決められてしまうというのが現実である。
<報復の権利>など、それがあるとされる社会でさえ、実は必ずしも担保されないということだ。そんなものが通用するのは、フィクションの中だけでしかない。なにしろフィクションでは、<巻き添え>など生じずに確実に仇だけに報復ができてしまったりするが、現実ではえてして<巻き添え>は生じるものなのだから。
恨みで頭に血が上っている者が冷静に対処などできるはずもないし、冷静に対処できるのであればそもそもそこまで『恨み骨髄』というわけではないだろう?
アリシアはそういう諸々が悲しかったのだった。
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