千堂アリシア、彼女の原点
正直、アルビオンでの三日間は必ずしも楽しいものとは言い難かったものの、それでも千堂アリシアにとっては大事な経験となった。
そして、
「じゃあ、次は、<カルクラ>だな。クラヒが久しぶりにアリシアに会いたいそうだ」
「<カルクラ>……」
アリシアはハッとなってそう呟く。<カルクラ>と言えば、
そう、<都市>ではなく<町>だ。元々は管理されることを嫌った者達が非合法にオアシスに住み着いたのが始まりであり、それこそ、
『法や秩序などどこ吹く風』
といった混沌そのものという町だった。だから、カルクラを自分達の行政区の一部と考えている者達でさえ、そこの住人の命など家畜ほどにも重視していなかった。
何しろ、現在のロボットは、原則として人間を傷付けることができない。しかしカルクラを襲撃したロボットヘリは、
『ゲリラを殲滅する』
という建前で、ゲリラとは無関係な住人まで殺傷した。というのも、そのロボットヘリには、本来ならすでに運用が禁止されているはずの第一次火星大戦当時に製造された旧式のAIが使われていたのだ。
<敵>と見做せば人間さえ殺傷することができる。
このことは、半ば<公然の秘密>として一部の都市ではまかり通っていた。もちろん、火星政府はそれについて是正を求めてはいるものの、のらりくらりと躱されて、遅々として進んでいないという現実もある。
そんな、アリシアにとっても必ずしも好ましい思い出があるとは言い難いものだったが、実はカルクラに出向くことは、アリシア自身の要望だった。なにしろそこは、彼女が明確に<心(のようなもの)>を確立した思い出も場所でもあったのだから。
そして<クラヒ>は、カルクラでジャンク屋を営んでいる男で、一言で説明するなら、
<小悪党>
だろう。たいそうなことをしでかすわけではないがだからといって善人でもなく、ケチな悪事で小銭を稼ぐタイプだった。ただ、アリシアがカルクラに取り残された時、彼女を、<ジャンク品の寄せ集め>という形ではありつつ修理して使ってくれていたのもクラヒだった。
まあ、善人ではないが悪党にもなり切れないタイプでもあるのだろう。
その後、千堂がアリシアを迎えに行った時に、彼がクラヒに買い与えたアリシア2234-HHCに、今回、リンクをするということである。
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