アルビオン、また別の一面

<オックスフォード・スクエア>を行き交う人間達も活気に溢れていた。しかしその時、


「知れ者がっ!!」


突然、怒声が上がり、ガシャガシャン!!と大きな物音が。見ればオープンテラスのカフェで客同士がトラブルになったようだ。しかも、スーツ姿で白髪交じりの男が仁王立ちになっている。対してブルゾンの若い男が地面に尻を着いてスーツの男を見上げていた。


「てんめえ!」


若い男も激高して立ち上がったが、


「お客様、どうなさいましたか?」


カフェで運用されているのであろうメイトギアが二体、店から出てきて、ブルゾンを着た若い男と白髪交じりのスーツの男の間に入ってこれ以上の衝突にならないようにしていた。


それにしても、老化抑制技術が実用化された現在、一見して加齢を感じさせるような年齢となると少なく見積もっても百歳近いはずである。対して、ブルゾンを着た若い男の方も、外見だけでは年齢はまったく分からないが、六十代でもかつての二十代くらいに見えることも少なくない。それでもこのような騒ぎを起こすのだから、本当に年齢というものは当てにならないということだろう。


なお、カフェのメイトギアが、双方の間に入って丁寧に対応しつつも、自身の体を張って止めてくれていることにより、<事件>にまではならずに済んでいる。何があったかは分からないにせよ、目先の感情で事件を起こすことをロボットが防いでくれているのだ。


かと思うと、少し路地裏に入ると、パーカーを羽織りフードを目深にかぶった男が、携帯端末を見ながら前から歩いてきた若い男性を、それまではまったくそんなそぶりも見せなかったにも拘らずいきなり力一杯殴り付け、殴られた方の男性は意識を失ってその場に昏倒。男性が手にしていた携帯端末をパーカーのフードを目深に被った男が奪い、そのまま歩き出した。


アリシアはその光景を離れたところからとはいえ目の当たりにし、即刻、警察に通報。表通りから連絡を受けたレイバーギアが路地裏に走り込んできて、走り去ろうとした男を取り押さえた。


アリシアも、男が携帯端末を見ながら前から歩いてきた若い男性を殴り付けるまではそんな予兆を察知することができず、唖然とする。


本当に人を殴ることにまったく躊躇がなく、それこそ挨拶でもするくらいの気軽さで平然と、相手が昏倒するような勢いで殴れることに驚かされた。


もちろん、戦場でなら、それこそ眉一つ動かさず人を殺す者も普通にいる。しかしここは仮にも街中である。それでこれというのもどうかしているというものだろう。


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