アルビオンの人間達、古い価値観に囚われる

地球のイギリスにおいては、フランスに対する嫌悪感は確実に薄れてきているそうだ。


なのにアルビオンの人間達は、フランスを毛嫌いする価値観が今も強く残っている。そう考える者達が作った都市だった。


とは言え、そう考えて実際にフランス系の人間に対して何らかの加害行為を行えばそれについては逮捕されたりもするものの、


『フランスが嫌い』


という価値観だけであれば、強制的に変えさせようとするのも<強要>として罪に問われることさえある。


<内心の自由>というものも保障されているのだ。ゆえに、同じ価値観を持つ者同士のコミュニティとしてこのように都市を築くこともできた。


まあ、大変な資力を持つ者が協力することと人数が多いことが最低限の条件にはなるが。それがない場合には、明帆野あけぼののような小規模のコミュニティとなる。


が、人間というのは、数が集まり、そして新しい世代が生まれてくると、このコミュニティが築かれた価値観にそぐわない者も中には出てくる。エドモントの娘もそうだ。娘は、父親達が持つ価値観を『古臭い』と考え、反発している。


その反発がそれこそただの<反抗期>的な一時いっときのものに過ぎず、成長と共に<古い価値観>に迎合していく者も多い。結局は長い物に巻かれた方が自分にとっても利になると考えるようになる事例が多いからだろう。


一方で、社会に迎合できず、いや、社会に迎合していくことを選ばせるような<利>を納得できる形で提示してもらえなかった者は、反抗心を拗らせていく。そんな場合にも大半はアルビオンを出て別の都市で暮らしたり、それこそ明帆野あけぼののような小さなコミュニティを築き<自分らしい生き方>を模索するのだが、ごく一部には極端な思想に走る者もいる。これにより反社会的な生き方をしたり、まさしくテロリストへと堕ちていく者も出てくる。


こうなるともう始末に負えない。


「……」


千堂アリシアが見た限りでは、エドモントの娘は、いずれ社会に迎合していくタイプだと感じた。口では悪態を吐きつつも、今の暮らしを捨てる覚悟は見られず、自分が今の暮らしができているのは、自身が反発している古い価値観によって成立している今のアルビオンの社会があるからこそだという事実には、無意識で気付いているように察せられたのだ。


メイトギアに当たり散らすだけで、自身の本音を父親には直接向けていないことからもそれが推測できる。本当に危険な形で拗らせていくタイプには、誰に対しても本音を打ち明けることがない、父親にだけではなくメイトギアにさえ本音をぶちまけずに鬱屈した気持ちを自身の中へと溜め込んでいく、という者が少なくないのは、データの上からも明らかになっている。


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