人間、行きつ戻りつを繰り返し
アルビオンは、確かに、古い価値観に固執する者達が作り上げたコミュニティである。ゆえにトラブルも多い。特に、
『力で他者を思い通りに操るのが当たり前』
という考えが今なお根強く、それにより粗暴犯も少なくない。相手が自分の思い通りにならないというだけで突然キレて暴力をふるうというものだ。
たいていはメイトギアやレイバーギアが間に入って受け止めてくれるものの、何しろそれまでにこやかに談笑していたと思ったら一瞬で激高して殴りかかったりするので、対応が間に合わないことも少なくない。
そのため、予兆をバイタルサインという形で察知してるのだが、直接触れないと脈拍や呼吸程度しか取得できず、それだけでは確実ではなかった。例えば強盗などの場合は、すでに挙動そのものが不自然になるので分かりやすいものの、唐突にキレる者の場合には。普段のバイタルサインがそもそも興奮状態を示すそれだったり、逆にキレる瞬間に一気に上昇するタイプだったりして、予測が難しいのだ。
この辺りも、体面や体裁を重視する気性が影響しているのかもしれない。
ただその一方で、優秀な人材も多いため、アルビオンの在り方そのものを全面的に否定できないという事情もあった。千堂アリシアが世話になっているエドモントも、非常に優秀な医師である。同時に研究者でもあり、医療技術の発達に貢献している人物の一人でもあるのだ。
確かに、他者を見下したり蔑んだり嘲ったりしないことを心掛けている
けれど、<価値観の違い>は、そう簡単に埋まらないものであるのも事実。
『殺人は許されない』
その価値観が地球全土に広まってもなお殺人事件がなくならなかったように、今も、数自体は減りながらも残っているように、完全に一つの価値観に統合するということは、現時点ではまだまだ達成できそうにないのだ。
そして強硬に他者の価値観を一方的に否定しようとすればそこに大きな軋轢が生じ、やがて衝突へと繋がっていく。
ゆえに、時間を掛けて少しずつ納得していってもらうしかない。
行きつ戻りつを繰り返しつつも。
三度の火星大戦も結局はそういうものの一つと言える。大変な犠牲を払いつつも、その中でいくつかの合意が得られる。価値観の変遷をもたらす。
人間はそうして今日までやってきたのだと言えるのかもしれない。
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