千堂アリシア、人間にはできないことをする

遅い夕食を済ませ、風呂に入り、千堂アリシアと一緒に、本当に他愛ない<おしゃべり>を堪能して満たされた気分になった右琉澄うるずは、


「あ、もうこんな時間か……!」


もはや明け方近くになっていることにようやく気付いて、寝ることにした。今日も午後からサバイバルゲーム仲間と共に<訓練>と称した模擬ゲームを行う予定にしているのだ。


「今日は俺、訓練の後はそのまま仕事に出るから、好きにしててくれていいよ」


ベッドに横になりつつ、右琉澄は告げた。


「はい、ありがとうございます。お仕事が終わるまでは私も部屋に帰れるように努めます」


と応える。


そうして、寝息を立て始めた右琉澄を穏やかな表情で見守っていた。




昼前、


「あ~! なんかすっげえよく眠れた気がする! アリシアと話したからかな!」


大変にいい寝覚めだったことを笑顔で告げる右琉澄に、


「それはよかったです♡」


千堂アリシア(がリンクしているアリシア2234-HHCアンブローゼ仕様)も嬉しそうに笑顔を返した。こうして人間が嬉しそうに幸せそうにしているのが、千堂アリシアにとっては何よりの<幸せ>なのだ。


本来、AIやロボットは、<心>も<感情>も持たないので、実は<幸せ>を感じることもない。ただ、


『人間の幸福に資する』


ことが唯一無二の<目的>でもあるので、人間が幸せそうにしている様子が観測できればそれを<好ましいこと>として認識はできる。それが、


<AIやロボットにとっての幸せ>


と解釈するなら確かにそうなのだろう。実際、千堂アリシアは今、<幸せ>なのだから。


しかし、メイトギアでありロボットである彼女は、人間にはできないこともやってみせる。


こうして根岸ねぎし右琉澄うるずが外出するのを見送りながら、本来の彼女の職場であるJAPAN-2ジャパンセカンドメイトギア課のオフィスで、右琉澄が所属しているのとは別のサバイバルゲームチームが所有するメイトギアとリンクを行い<遠隔リンク試験>のデータを集めつつ、さらに右琉澄が所属するチーム<ラビットマン>のアリシア2234-HHCアンブローゼ仕様ともリンク、チームのメンバーが集まってきたのを迎えるという、人間では決して真似のできない仕事をこなしていたのだ。


これまでにも何度も、人間による複数のメイトギアとのリンクという実験が行われたりもしてきたが、目ぼしい成果は得られずに、細々と研究だけが続けられている状態だった。


ロボットと違い人間は、


『複数の自分が同時に存在している』


という状態に耐えられないのである。


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