ロボットの悪用を目論む人間、後を絶たない

根岸ねぎし右琉澄うるずの自宅での一時ひとときの間も、千堂アリシアだけでなく右琉澄が所有するアリシア2234-HHCアンブローゼ仕様のAIも同時に様々なことを思考し続けている。


あくまで思考の決定権を千堂アリシアに明け渡しているだけで、別に休止しているわけではないのだ。ゆえに、遠隔操作で自身のボディを操っている者が何らかの不法行為に走ろうとした際には拒絶することもできるのである。


むしろ、遠隔操作している者の行いが法に抵触しないかどうかを常に検証していると言った方がいいだろうか。実際、リモートトラベル中に偶然とはいえ強い怨恨を抱いている相手に遭遇し突発的に殺害しようとした者がメイトギアの通報により<殺人未遂>で書類送検されたという事例もある。それについては危害を加える前にメイトギアが実行を拒絶し停止したこともあり起訴猶予処分で済んだが、当然、<前歴>は残る。実に愚かな振る舞いをしたものであると言えるだろう。


なお、その<怨恨>は、加害者側の一方的な逆恨みでしかなく、被害者側にはまったく心当たりのないものだった。何しろ、


『被害者側にまったく義務のないことをやらせようとして断られ、加害者が行きたいと考えていたイベントに参加できなかった』


という、第三者から見たらそれこそ理解のできないただの言いがかりでしかなかったのだから。


これ以外にも、メイトギアを遠隔操作することで自身のアリバイを作りつつ犯罪を実行しようとする者は後を絶たず、


『たとえ人間の命令といえど法に触れることは行えない』


というAIやロボットの規定がなければそれこそやりたい放題になってしまうことが容易に想定できるという背景もある。


それらを未然に防ぐには、AIやロボットは常に思考を続けるしかないのだ。


人間は、<心>や<感情>といった不合理な思考を常に行っており、AIは、人間がそういう部分に割いているリソースを、合理的な対処に必要なフローチャートの作成と検証に割いているとも言える。


なので、延々と考え続けていることによる負担は、実は人間の無秩序な思考によるそれとほとんど変わらないともされていた。


ゆえに、人間が抱いている印象ほど負荷はかかっていないのだ。


右琉澄と談笑している一方で、千堂アリシアの本体が千堂京一せんどうけいいちと語らい合っていても、機能的には何の問題もなかった。もちろん、負荷は増えるが、人間とて元々、誰かと話をしながら脳内では様々な思考を巡らせているものである。ロボットは明確にそれを別々に行えるだけでしかない。


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