千堂アリシア、対応策を検討する

以上、長々と説明してきたが、これすら、少女を保護した千堂アリシアが自身のAIで思考し検証を行っているもののごく一部に過ぎない。それを、千堂アリシアを含むロボットは常時考えているということだ。


これも、ロボットに<感情>や<心>を再現できない理由の一つだった。<感情>は、それらの思考を駆逐してしまうことが少なからずある。法に反し規範に則らない振る舞いを優先してしまうのだ。それではAIやロボットを運用している意味がない。


感情的に考えればいいのなら人間がすれば済む。感情を差し挟まず徹底的に合理的に考えられるのがAIの強みであり、人間が感情に囚われて見落としがちになる部分を指摘してもらうためにAIやロボットは存在する。


そういう意味では、<心(のようなもの)>を持つ千堂アリシアは、ロボットとしての価値は下がってしまっているとも言えるだろう。


けれど、彼女の主人である千堂京一せんどうけいいちは、<ロボットとしての価値>という面だけで千堂アリシアを捉えてはいない。むしろ単純に、彼女を<家族>として認めているからこそ大切に思ってくれているのだ。


だからアリシアも、ただの<家出人>として少女を保護しているわけではなかった。千堂がアリシアに幸せになってほしいと思っているのと同じに、アリシアは少女にも幸せになってほしいと思っている。


ゆえに関係各所に普通のロボットが要請する以上の総合的な対処を求めているのだった。


が、ここで<少女の家族>にそれを求めようとしない辺りは、やはり彼女も<ロボット>ということなのだろう。


そもそも家出をするということは家族との間にこそ問題があり、ここまでそれを解決できなかったからこそ<家出>という強硬手段に出てしまったのだから。


だとすればここはやはり、第三者の視点で少女と家族双方の問題点を洗い出し検証してくれる専門職の派遣が望ましいだろう。完全に家庭内の問題だけに収まっている間は介入も難しいが、<家出>という形でこうして警察をはじめとした関係各所に対応を求める事態に至っては、ただの<家庭の問題>ではなくなってしまっている。特に虐待などの事案の場合は、直接警察などに助けを求めた場合に加害者からさらに苛烈な<折檻>があることを恐れて、


『誰とも関わらないようにしよう』


という考え方をする事例が少なからずあった。今回がそれに当てはまるかどうかはまだ分からないものの、被害者が助けを求められない精神状態に陥っているというのは実際に有り得る事態なので、『いきなり警察が』とまではいかないにしても、公的なカウンセラーなどが間に入るというのは普通のことなのであった。


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