個人の利益と公共の福祉、その境界

なお、人間の<性癖>というものは実に複雑怪奇であり、中には自身の性行為をメイトギアに録画させてコレクションしようと考える者がいるが、さすがにそこまでのものとなると、いかに主人が映っていようとも、基本的にロックが掛けられてしまう。


また、育児や介護の補助もメイトギアをはじめとしたロボットの役目だが、その際に記録されたものも原則として容易には取り出せない。入浴や排泄をはじめとした非常にセンシティブな映像も含まれるからである。


となると、主人が自由に取り出せるデータの方が限られてしまうものの、人間自身が行っていた時にはそもそも取り出せるはずもないものだったのだから、基本的には困ることはないはずである。


さらに、現在ではスチルカメラやビデオカメラにもAIが内蔵されており、不法な目的でポルノ映像などを撮影することもできなくなっている。なっているのだが、AI制御の安全装置を搭載していない頃の機器を使おうとする者や、違法改造することでAIの監視を逃れようとする者もやはりいて、その種の違法なポルノ映像の完全な根絶には至っていないこともまた事実ではある。


加えて、単なる<家族写真>として、たまさか肌の露出の多い状態で写真や映像を残したいと考える向きもあるだろうが、それについては一応、撮影できないこともない。ないが、


『この映像(画像)は、法律に触れる可能性があり、慎重な扱いが求められます』


という警告文が表示されるという仕様になっている。大変に煩わしい話ではあるものの、<被害>を防ぐことへの協力や理解を求めるためのものとして、現在はおおむね容認されている。


さらに余談ではあるが、過去の映像コンテンツ等の扱いについては、児童ポルノに該当するなど完全に<違法>とされたものについては封印処置が施されているが、そのコンテンツが制作された当時、


『ゾーニングさえ徹底されていれば適法』


とされていたものについては、<グレー扱い>ではありつつ、ゾーニングの規定が厳しくなっていたり(R15相当だったものがR18に引き上げられていたり)もしつつ、内容の修正が加えられたりはしていない。


この辺りは、『当時の文化を知る一助となる』という建前もあって妥協されたものだと言える。


かように、<個人の利益>と<公共の福祉>というものは、明確な線引きが非常に難しい。


<統一された見解>というもの自体いまだ存在せず、様々な価値観を持つ者の間で綱引きが続けれれている状態である。


ただ、


『現実に存在する人間に被害が生じる場合』


については厳しく対処するという点では合意を得ている。


ちなみにこれは、


<非実在の人物>


および、


<すでに亡くなっており、遺族からの異議申し立てがない人物>


は原則的に除外されるという意味でもある。前者は、


<実在のモデルが存在しない完全な架空の人物>


であり、後者は、


<美術品としての価値を持つ絵画や彫刻としての裸像のモデルになった人物>


と考えてもらえれば分かりやすいだろうか。


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