アンブローゼ、その成り立ち

<アンブローゼ>は、


<日本のコンテンツを愛好する者達のコミュニティ>


が基になった都市だった。つまり、<国>ではなく、<同好の士>の集まりがルーツである。そんな者達がクラウドファンディングにより出資を募り、JAPAN-2ジャパンセカンドのバックアップもあり生み出されたという経緯があった。


<漫画やアニメやゲームといったコンテンツを純粋に楽しみたい者達の理想郷>


と目指したのだという。


もっとも、<社会>というのはなかなかそれだけでは成立せず、有形無形の<しがらみ>もあって、


<余計な雑音に惑わされずに純粋にコンテンツを楽しみ追及する場>


とまではいまだに至っていない。漫画やアニメやゲームといったコンテンツを毛嫌いしあらぬ因縁を付けてくる者達を排除したコロニーを目指しつつも、結局、それぞれが好きなコンテンツによってマウントを取ろうとする者はやはりいて、その種の<マウント合戦>については日常的に存在し、結局、不快な思いをすることはあるのだ。


また、漫画やアニメやゲームが好きな者の中にも酒などを嗜む者もおり、それを供する店舗なども自然発生したが、


<飲酒を嫌う者>


も同時に存在することで、なんだかんだと嫌悪の対象になったりもしている。


結局、人間が集まるところにはその種の、


<趣味嗜好・主義主張・価値観の相違からくる衝突>


はなくなることがないという証明にもなっていた。これは、<明帆野あけぼの>のような小規模なコミュニティでさえ少なからず生じることである。住んでいる人間の数が少なく、宿角すくすみ森厳しんげんやレティシアのような、


<多くの住人達から信頼されている調停役>


がいることで緩和されているに過ぎない。好羽このはの通夜にしても、皆で酒やツマミを持ち寄り酒宴を行うことに対して眉を顰める者も実はいたのである。故人を悼む場で表立って衝突することがなかっただけで。


それでも人間は暮らし、生活を営む。人生を過ごす。


右琉澄うるずがバーテンを務めているバーは、アンブローゼにおける<色街>とも言える、アダルトなコンテンツが集まった場所の一角にあった。


<色街><歓楽街>と称されるその種の商業地区らしい猥雑とした印象のあるそこに、


「やっぱり、こういう場所ってどこに行っても似たような感じになるんですね」


千堂アリシアが感心したように呟いた。それに対して右琉澄も、


「だよな。なんでなんだろうな。人間にとっての<そういうもの>ってのは、だいたい共通してるのかもって俺も思うよ」


やや自嘲気味にそう言った。


もっとも千堂アリシア自身は、人間の<享楽的な部分>についても、これといって強いマイナスイメージは持っていなかったが。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る