間倉井好羽、その流儀

こうして明帆野あけぼのでは、間倉井まくらい医師の四十九日法要を迎え、しかしそれは、森厳とレティシアと久美と亜美が、明帆野あけぼの唯一の寺の住職を迎えて慎ましやかに終えて、納骨。すべての段取りを終えた。


永代えいたい供養>という形にしたので、後は霊園がずっと管理を続けてくれる。そのための費用は、好羽このは自身があらかじめ支払っていた。なるべく余人の手を煩わせないようにするために。


自分の人生は自分で作る。だから、自分の死も極力自分で作り上げておく。それが好羽このはの流儀だった。


だから、間倉井まくらい医師を偲ぶ誰かがふらりと参ることはあっても、<仕事>として管理を引き受けた霊園の管理者以外が彼女の墓を守るわけではない。


そして納骨を終えた数日後、そこに久美の姿があった。いや、違う。


<久美の体を通して墓参した千堂アリシア>


であった。


彼女は、その義務はないもののまだ新しさが残る間倉井まくらい医師の墓を丁寧に掃除し、線香を点した上で手を合わせ、


間倉井まくらい先生。診療所は大和先生がしっかりと受け継いでくれています。ご安心ください」


と告げた。


ロボットは普通、こんなことはしない。ここのような従来型の墓を敢えて用意している家の者が、自分の代わりにメイトギアを墓参に寄越して墓の手入れさせた上で、託したメッセージを読み上げさせるようなことはあるものの、それはあくまで、


<リモート墓参>


であって、ロボットが故人を悼んでいるのではないのだ。けれど千堂アリシアは、自らの意思でそれを行った。


もちろん、診療所の休診日に、もし急患があればすぐに帰れるようにしつつだが。


自身が深く関わった人間が亡くなったことで、


『その必要はない」


と言われても、それでもいてもたってもいられなくなったのだ。人間が敢えてこのような不合理な振る舞いをする理由が、千堂アリシアには分かってしまった気がした。


『胸の中にすごく収まりが悪い部分ができるからですね……』


彼女はそう解釈した。


故人を悼む理由は人それぞれだろうが、少なくとも千堂アリシアの場合はそうだった。


こうして墓参してみると、確かにそれは収まった。


けれど彼女は、まだどこか収まりの悪いものを感じていた。間倉井まくらい医師のことはもう大丈夫だが、それ以外にもあるのだ。


『タラントゥリバヤさん……』


彼女の胸によぎる名前。そう、<クイーン・オブ・マーズ号事件>の実行犯の一人にして最後の死亡者、


<タラントゥリバヤ・マナロフ>


のことであった。


彼女のことを思い出すと、たまらない気分になるのだ。


間倉井まくらい医師が、本人にとっても納得のいくものであっただろう最後を迎えたからこそ……


同じ<死>であるはずなのに、どうしてこうも印象が違うのか、アリシアは理解できなかったのだった。


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