医療の進歩、それがもたらす皮肉な話
『その辺りも欲張っちまうじゃないか。まったく、罪深いもんだよ。医療ってのは……』
今回の大動脈解離にしても、
ただ、残り約十パーセントに当たってしまった事例だと、遺族としても、
『九十パーセントの確率で助かるはずのものだったのが死んだ。これは病院側の医療ミスの所為に違いない』
的に考えるようになってしまっている面があって、裁判になることも多いのだ。しかし残念な結界に終わった約十パーセントにしても、決して<医療ミス>のせいではない。患者自身の体力などの影響なのだ。生存率を算出する際の母数に<医療ミスによる死亡事例>は含まれていない。
なのに、『死ぬはずがない』という思い込みが、
『事実が隠蔽されているに違いない!!』
という不信感となり、遺族を先鋭化させてしまうこともある。
これもまた、
<医療の進歩がもたらした皮肉な話>
と言えるだろうか。
さらに今では、<健康寿命>そのものが百二十歳を超えたと言われている。つまり、最新の老化抑制処置を受けた人間は、今の
人間はいったい、どこまで行こうというのだろう……?
目標は分かっている。<不老不死>だ。老いることなく永遠の時間を生きられること。
それが究極の目標のはずだった。
けれど
『永遠に死なないってのは、そんなに嬉しいことかい? 人間として生きるのに飽きたって死ぬこともできないんだよ? 確かに私だってまだまだやりたいことはないとは言えないよ。でもね、今の倍の年数を生きたら、たぶん、それもやり切ってしまえるだろうね。
じゃあ、その先はどうなんだい? その先にもやりたいことはあるのかい? まあ、そん時はそん時でやりたいこともできるのかもしれないけどさ……
でも少なくとも私は、あと百二十年も生きるのはちょっと御免被りたいね……』
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