アリシア2234-LMN、危機対応モード

まだ中学生くらいにしか見えないのに非常に落ち着いていて腹が据わっており、度量の大きさも感じさせる秀青しゅうせいに、立志りっしは、彼を見掛けた時につい舌打ちしてしまった自分を恥じた。


しかしそれは表には出さず、とにかく間倉井まくらい診療所へと向かう。


一方、アリシア2234-LMNはトラックの荷台で雨に打たれながら久美とデータをやり取りし、情報収集に努めた。そして、医師の派遣を拒否された事実に対し、


「秀青様」


彼の携帯端末越しに声を掛け、


「医師の派遣については、大学病院側の責任者の働きかけにより、他の病院等からの派遣も現状では難しいようです。もちろん、そのようなことが許されるはずがありませんので、いずれは関係各所からの介入が行われ状況は改善すると思われますが、それまでの間は対処が難しいと予測されます。ですのでここはやはり、JAPAN-2ジャパンセカンドロボティクス部門の役員であり多大な影響力を持つ千堂京一せんどうけいいち氏に協力を依頼してはいかがでしょうか?」


そう提案した。『大学病院側の責任者の働きかけにより、他の病院等からの派遣も現状では難しい』という部分に対し秀青も、


「……そんなことが許されるのか……!」


と憤りながらも、


「そうだな、ここは千堂さんを頼ろう。それと同時に、お祖父様からも口を利いてもらえるか、連絡してくれ。確かここは、お祖父様の戦友の一人と縁の深い場所だったはずだ……!」


冷静に指示を出す。そんな彼に、立志は、


「あんた、JAPAN-2ジャパンセカンドの偉いさんと知り合いだったのか……!」


驚きを隠せない様子で口にした。


しかしその時、


「!?」


「な……っ!?」


トラックがガクン!と激しく揺れて、大きく傾いてしまった。道路が陥没していて、そこに右前輪が落ちてしまったのだ。元々ひび割れていた道路に雨水が流れ込み、その下の土を流してしまったのかもしれない。そこにトラックの重量が掛かったことで陥没してしまったのだろう。


普通に考えればそのまま立ち往生してしまう可能性の高い事態だったが、


「アリシア! 頼む! 危機対応モード!」


秀青は少し慌てた様子ながらもアリシア2234-LMNに命じると、


「了解いたしました。危機対応モードにて対処します」


淡々と復唱し、すでにトラックの前で秀青の安全を守るために待機していた彼女はその場に屈み、バンパー裏のフレーム部分に手を掛けて、ぐい!と持ち上げてみせた。


「うおっ!?」


車体そのものが浮き上がるような感覚に、立志が思わず声を上げる。


そうしてトラックの前部を持ち上げたままアリシア2234-LMNが移動。安全な位置にまで運んだのだった。


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