アリシア2234-LMN、秀青に従う

館雀かんざく立志りっしが運転する小型トラックは、いわゆる<軽トラック>とかつて呼ばれたものとほぼ同等の規格のものだった。キャブオーバーのピックアップトラックであり、定員は二名。


「診療所まで送る! 乗ってくれ!」


間倉井まくらい荘の玄関前に停車させて、窓を開けながら立志が秀青しゅうせいに声を掛ける。


正直、思うところはあるものの、この非常事態に自分の感情を優先しない程度の理性は持ち合わせていたようだ。ただ、


「でもこいつは二人乗りだ! ロボットは後ろに乗ってもらうが、それでもいいか!?」


「ありがとうございます!」と告げながら乗り込んできた秀青に立志が問い掛けると、秀青もためらうことなく、


「もちろん! お願いします!」


きっぱりと応えた。アリシア2234-LMNはロボットだ。荷台に乗せる場合は本来は固定しないといけないが、今は非常事態であり、人命救助が優先される。また、秀青自身、アリシア2234-LMNを荷物扱いされることに対して自分の感情を優先したりはしない。彼もロボットというものをきちんと理解しているからだ。


「聞いての通りだ! 乗れ!」


秀青が命じると、アリシア2234-LMNも一切ためらうことなく不満げな様子を見せることなく雨ざらしの荷台へと飛び乗り、左右の<あおり>部分を掴んで自らの体を固定する。


「オールグリーン」


アリシア2234-LMNが告げると、


「行ってください!」


秀青がシートベルトをしつつ声を上げ、


「揺れるぞ! 舌を噛むなよ!」


立志がアクセルを踏み込んで、激しい雨の中、トラックを発進させた。


「気を付けてね…!」


もう声が届かないことは分かっていたものの、明帆野あけぼの荘の玄関で美月が心配そうに見送っていた。その後ろでは、立志と美月の父親である訓臣のりおみがやはり見送っていた。




明帆野あけぼの荘から間倉井まくらい診療所へは、急げば五分程度。しかし今日は大変な雨なので、急ぎつつも立志は安全の確認を優先した。


荷台で雨に曝されるアリシア2234-LMNも、常に周囲を確認する。


通りがかった川はすでに増水しており、近付けば危険な状態だった。しかし、道路を走る分にはまだ問題ない。


「なんかすまねえ……! 村のことなのに、観光客のあんたを巻き込むことになっちまって……!」


立志は、激しい雨越しに前方確認しようとしてやや前のめりのハンドルを抱きかかえるような姿勢で運転しつつ、秀青に話し掛けた。すると秀青も、


「いえ、緊急事態なんだから当然のことです…!」


まだ中学生くらいにも見えるのに腹の据わったその様子に、


「あんた、若いクセにすげえな……」


立志は思わずそう呟いたのだった。


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