館雀美月、茅島秀青を歓待する

明帆野あけぼの荘の従業員、館雀かんざく美月みつきは、茅島秀青かやしましゅうせいを迎え、丁寧に対応してくれた。彼がメイトギアを連れていることについても、不快そうな様子も見せない。しっかり<仕事>として割り切っているのだろう。


「どうぞ。お部屋はこちらです」


これまた伝統的な日本の民宿を思わせる作りの建物内を丁寧に案内し、秀青を部屋へと導いた。ドアはふすまを思わせるデザインの引き戸だったものの、さすがに鍵が掛かるアルミサッシが基になっているようだ。


「へえ!」


通された部屋も、六畳と四畳半の二間、掛け軸のかかった床の間もあり、ともに畳(に似せた床材)で、やや古びてはいるものの掃除は行き届いていて清潔だし、雰囲気もある。窓には障子も設えられていた。ただしこちらも、障子を開けるとすぐにアルミサッシの窓になっているが。


民宿風の宿によく見られる作りだった。


最近では、床の間には掛け軸や生け花ではなくテレビモニターやオーディオセットやカラオケセットが設えられているところも多く、せっかくの雰囲気が台無しになっている<民宿風宿>も少なくない。おそらく、宿泊客の側も掛け軸や生け花よりもそういうのを求めているのだろう。ニーズを考えれば当然なのかもしれないが、今となってはニッチなのだとしてもやはり<雰囲気>を楽しみたい者もいるはずとは思うのだが。


もっとも、本気で伝統的なそれを求める層はもっと本格的な、本当の伝統的な民宿そのものを再現した宿に行くだろうから、これはこれでいいのかもしれない。


秀青も、


「雰囲気あるじゃないか」


と少し嬉しそうだ。


彼自身は、よく訪れていた祖父の家の母屋が、まさしく日本の伝統家屋を忠実に再現したものであったことから、実はこの明帆野あけぼの荘のそれが<伝統的な民宿風>でしかないことは承知しているものの、実はあまり本格的な日本家屋については重苦しい雰囲気があってあまり好きではなかったりもする。厳格な祖父に対する反抗心も影響してるのかもしれない。


それでも、決して嫌いではないので、この明帆野あけぼの荘のそれのような感じはむしろ丁度いいようだ。


「どうぞ、お寛ぎくださいませ」


美月が丁寧に床に手を着いて頭を下げると、


「はい、お世話になります」


秀青も膝をついて頭を下げた。アリシア2234-LMNも主人に倣いその場に正座して頭を下げる。


すると美月は、


「お若いのにすごく礼儀をご存じなんですね」


笑顔でそう口にする。そんな彼女に、秀青は、


「はは……祖父が厳しかったもんで……」


頭を掻きながら答えたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る