実験集落、明帆野
「ここは本当にのどかな場所だな……」
昆虫を追いかけつつも、いや、昆虫を呑気に追いかけていられたからこそ、
道端には雑草が生い茂り、道路の舗装もひび割れてこそからも<火星タンポポ>が伸び花を咲かせている。他の土地では考えられないことだった。
他では、どんなに<田舎>であってもロボットが相応の数だけ運用されていて、ライフラインについては常時完璧に整備されている。道端に雑草が生い茂ることもまずないし、舗装がひび割れたまま放っておかれることもないのだ。
「本当にロボットがほとんどいないんだな……」
呟く
「はい。現在、この集落<
淡々と事実のみを説明した。人間であればここ<
『時代に逆行するイカレの掃き溜め』
『現実を見られないバカ集落』
等の悪口雑言を並べるか、逆に、
『こここそ人間の文明のあるべき姿』
『自分もこんなところに住みたい』
といった風に全肯定の賛美が並ぶかのどちらかだった。しかしそれらは、どちらの立場であっても
『人間らしく生きたい』
と望んでいるだけである。
が、無責任な外の者達が何を言っているかくらいは知らないわけでもなく、住人によっては余所者をあまり快く思っていない者もいないわけでもない。住人全員が聖人君子というわけでもないのだから。
なので、夢中になって昆虫を追いかける秀青の姿を、明らかに不愉快そうに見つめる者もいた。畑で作業をしていた青年だった。まだ三十代にも拘わらず
<
であった。
彼の眼には、ひたすら虫を追いかけている
もっとも、自身の主人に対して不穏な視線を向ける館雀のことを、アリシア2234-LMNはすでに察知していたのだが。
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