岩丸ゆかり、詰め寄る

「<戦術自衛軍>の岩丸英資いわまるえいしか。なるほど、妹君の救出のために個人的に動いたというわけか」


現場のライブ映像を見ながら指揮官が呟いた。


実は、ゆかりが発信した<緊急信号>は、英資だけでなく両親の端末に受信され、そこからニューオクラホマ市の警察に救助の要請がされたことで、その情報も上がっていた。そして今、英資が<個人としての身分証>を提示したことで身元照会が行われ、情報が繋がったということである。


彼がニューオクラホマの空港に降り立った時点からの監視カメラや警備ロボットのカメラに捉えられた映像から<肖像検索>で行動が把握されて、怪しい点がなかったことも幸いした。今後さらに詳細に検証されて<人類の夜明け戦線R(リベンジ)との繋がりがないかどうかを調べられることにはなるだろうが、少なくとも今の時点では容疑者(要拘束リスト)からは外されることとなった。


で、当の岩丸英資いわまるえいしはというと、


「えへへ~♡ 特殊部隊仕様のメイトギアか~、超レアものじゃん。幸せ~♡」


普通ならなかなかお目にかかることのできない、公式にはその存在を秘匿されているメイトギアを間近で見られて、顔がにやけ切っていた。その様子は、当然、指揮所のモニターにも映し出されて、


「やれやれ、<OTAKU>か……」


指揮官が苦笑いを浮かべる。とは言え、<敵>でないなら、取り敢えずおとなしくしててもらえればそれでいい。ましてや、ニューオクラホマに駐留している軍としても、<戦術自衛軍>とは元々協力関係にあるので敵対する理由もない。加えて、岩丸英資いわまるえいしの目的が<妹の救助>であるなら、これで彼の目的も果たせたわけなので、仮にもプロであるならば、余計なこともしないだろう。


ただし、


「私の存在は、口外無用です。これを破られますと、あなたにとってもご家族にとっても大変な不都合が生じることをご理解ください」


<サーペントの隊員としてのメイトギア>が、非常に冷たい淡々とした口調でそう告げる。けれど、英資は逆に、


「あは~っ♡ その冷たい言い方、イイ♡」


何やらますます性癖に刺さったらしく、デレデレの表情かおで見悶えていた。


「お兄ちゃん、ほんとに私のこと心配してくれてたの……!?」


ゆかりが、囁くように声量は抑えつつも感情は抑えきれない様子で、兄に詰め寄る。まあ、この時の英資の様子を見ていればそう感じるのも無理からぬところだろうが。


いずれにせよ、後は所轄の警察の到着を待って、形ばかりの事情聴取を受けてそれから解放されるだろう。


ホテルに帰れるにはまだ少々の時間がかかるとしても、岩丸ゆかりと英資の<状況>は終了したと言えるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る